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» 2009年08月16日 15時00分 UPDATE

「キューイチ」世代の胎動――91-conf開催

1991年前後に生まれた世代を指して使われる「キューイチ世代」。これからその価値を世の中に伝播させようという彼らが、はじめてのカンファレンスを開催した。

[西尾泰三,ITmedia]
草野氏 会場を盛り上げる草野氏。右京氏とともに91-conf開催の立役者である

 rosylliyこと草野翔氏、そしてyaakaitoこと右京和馬氏は張り切っていた。2009年8月9日のことだ。2人はその時点で最も精力的に取り組んでいたカンファレンスイベント「91-conf」を成功させるという、苦難の1日を送っていた。

 1991年前後に生まれた世代を指して使われる「キューイチ世代」。これまでにも、ナナロク、ハチイチ、ハチロクといったクラスタがIT業界を中心に観測されてきた。現在、キューイチ世代の多くが学生だが、ここにきて急速に存在感を高めつつある。

 キューイチ世代の特徴の1つとして、物心ついたころからインターネットや携帯電話といったコミュニケーション手段が確立されていたという点が挙げられる。学校や地域という旧来存在していた物理的な枠を超え、彼らは興味の赴くままにゆるやかな疎結合を果たしてきた。草野氏は右京氏とともに、この流れを加速させようと考え、2008年ごろから何度かのオフ会やリレーust(Ustreamを利用した疑似テレカンファレンス)を開催してきた。

 そして今回、すでに多くのメンバーが顔見知りではあったが、本格的なカンファレンスイベントの開催を決意した草野氏。凡百のイベントとは違って、草野氏と右京氏は個別的なイベントの開催を意図してはいなかった。彼らが構築しようとしたのは、イベントという“箱”であり、特定の分野に特化した知識の共有を図るものではなかった。以下は、今回の発表者一覧だが、IT系の勉強会とは異なる内容であることが分かる。

id:lonlon2007:「mixiアプリの作り方」

id:hush_in:「就職活動について」

id:quolc:「NintendoDSを用いたハイブリッドP2P」

id:rosylilly:「近年のWebサービスにおけるコミュニティのあり方」

id:yaakaito:「91-confはじめました!」

id:y-shift:「ガラパゴスケータイ」


発表の機会をノーリスクで得る場に

tnfig91-1.jpg Chordをベースに独自実装した「DSChord」を発表する鈴木氏

 30人ほどが収容できるビルの一室で開催された91-confでひときわ目を引いたのは、quolcこと鈴木良平氏の発表だった。2008年の夏、P2PによるSNSシステムの開発で日本学生科学賞を受賞した彼は、その副賞としてMicrosoftが開催している学生向けの技術コンテスト「Imagine Cup」の視察でフランスに来ており、そこで記者と知り合っている。穏やかで柔らかな外見からは想像できないが、SuperCon2008での優勝、そして先日開催されたSuperCon2009では準優勝を勝ち取るなど、その戦歴は輝かしい栄光で飾られている。月並みないい方をすれば、技術的な面ではキューイチ世代を代表する人物の1人である。

 そんな彼の発表は「Nintendo DSを用いたハイブリッドP2P」。P2Pにおけるデータ利用の主流となっている分散ハッシュテーブル(Distributed Hash Table)を利用し、PCとNintendo DSのハイブリッドなリング型ネットワークを構築するというものだ。鈴木氏はDHTでよく知られたアルゴリズムの1つである「Chord」をベースに「DSChord」を独自に実装、Nintendo DS利用の新たな可能性を示した。最初に全体を想像し、次に必要な部分を造り、それらの部分を継ぎ目なく適合させることで、1つの巨大なクラウドネットワークの利用方法を提案したという意味で、非常に高いレベルで完成された発表だった。なお、彼の発表内容はこちらで見ることができる。

 鈴木氏の発表を除けば、ほかの発表は概して凡庸なものであったといってよい。運営面で荒削りな印象も受けたし、例えば高専カンファレンスなどと比べても、周りの大人を巻き込むパワーなどはまだ感じられなかった。

 しかし、このカンファレンスが無価値ではないということは当たり前ではあるが伝えておく必要があるだろう。むしろ彼らはこれから自分たちが持つ価値を世の中に広げようとする存在である。ただ、それ以前の世代と現時点で比較して彼らに欠けているものがあるとすれば、その価値を世の中にアピールするスキルである。彼らの中にも、未踏やセキュリティ・プログラミングキャンプ、そのほか多くのコンテストなどで才能を見いだされたり、ある者はすでに企業などで活躍しているものもいる。しかしその多くは学生であり、概して、効率的な意志伝達の方法を知っているわけではない。91-confは、“箱”として振る舞うことで、気軽な参加を促し、「ノーリスク」(草野氏)な能力育成の場にすることを意図しているようだ。この取り組みが実を結ぶかはまだ分からないが、ここを経由して社会とのつながり方を学んでいく者も出てくるだろうと感じた。

 もう1つ付け加えることがあるとすれば、キューイチ世代は、必ずしも“プログラマー”ではなく、“クリエイター”を志向しているように感じられる点だ。多くの勉強会が主にプログラミングの技術をベースとしているのに対し、91-confのセッションは1つの技術に必ずしも特化していない。草野氏が発表したコミュニティーに対する考察はその意味で象徴的であり、この世代が持つ感性を具現化したものとなっていた。

 無事に第1回を終えた91-conf。今後の展開に期待したい。

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