あなたの言葉はなぜ他人の心に響かないのか?オープンソースソフトウェアの育て方(5/7 ページ)

» 2009年09月29日 08時00分 公開
[Karl Fogel, ]

口調

 繰り返しメッセージを作成しているうちに、恐らく自分の文面がかなり素っ気ないものになっていくことに気付くことでしょう。これはほとんどの技術系フォーラムでありがちな話ですし、それ自体には特に問題はありません。一般社会でのコミュニケーションではあり得ないような素っ気ないやり取りが、フリーソフトウェアのハッカーたちの間ではごく普通なのです。以下に引用するのは、とあるコンテンツ管理ソフトのメーリングリストにかつてわたしが投稿したときに受け取った返信です。

どんな問題が発生したのか、もうちょっと詳しく正確に説明してくれませんか?

それから。

お使いのSlashのバージョンは何ですか?

元の投稿からはそれを読み取ることができませんでした。

apache/mod_perlのソースをビルドした手順を正確に教えてください。

slashcode.comに投稿されたApache 2.0のパッチを試してみましたか?

Shane

 まさに簡潔そのものです! あいさつもなければ署名は自分の名前だけ。そしてメッセージの本文はといえば一連の質問事項を可能な限り簡潔に並べただけ。唯一あった質問以外の文はといえば、わたしの元の投稿に対する間接的な批判でした。しかし、わたしはShaneのメールを見て気を悪くすることはありませんでした。彼の素っ気ない返答を見ても「ああ、忙しい人なんだろうな」というくらいのことしか思わなかったのです。彼はわたしの投稿を無視することもできたのに、あえて質問を返してきたのです。つまりこれは、彼がわたしの問題を解決するために時間を割いてくれているということを意味します。

 すべての読み手がこのように好意的に受け取ることができるでしょうか? 必ずしもそうではないでしょう。それはその人や状況によります。例えば、ある人が自分の犯した間違い(恐らく彼女はバグを書いてしまったのでしょう)を説明する投稿をしたとしましょう。これまでの経験から、あなたは彼女が気の小さい人であることを知っています。こんな場合は、もちろん簡潔な返信を書くこともできますが少しは彼女の気持ちを気に掛けるようにした方がいいでしょう。あなたの返信の大部分は、簡潔に技術者の視点で見た分析になるかもしれません。かなり素っ気ないものになることもあるでしょう。そんな場合でも「簡潔に書いているのは決して君を冷ややかな目で見ているからではないんだよ」と分かるようなことを最後に何か示しておきましょう。

 例えば、バグを修正するためのアドバイスをひととおり忠告した後の締めの言葉として「じゃ、がんばってね。<あなたの名前>より」といったことを書いておけば、決してあなたに悪気があるわけじゃないことが伝わります。あるいは、意図的に絵文字を使ってみたりして相手に安心感を与えるという作戦も効果的です。

 参加者がどう感じるかについていちいち気にするのを変に感じるかもしれません。でも、ぶっちゃけた話、人の感情というものは生産性に大きな影響を及ぼします。感情はほかの意味でも重要ですが、あえて実益の範囲に的を絞ったとしても、不満を感じている人はよいソフトウェアを書くことができないといえるでしょう。しかし、電子メディアには多くの制約があるので、人が何を感じているのかを知る手がかりを常に得られるとは限りません。そこで、

  1. こんな場合に普通の人はどんなふうに感じるだろうか?
  2. 過去のやり取りから、この人はどんな人物だと考えられるだろうか?

といった内容を基に経験から推測する必要が出てきます。中にはもっと突き放した態度で、単純に額面通りの対応をすることを好む人もいます。つまり、彼女が自分で「わたし、こう思うんです」といわない限りは決してそれに対する対応をしないというものです。

 個人的にはこの方法はお勧めできません。それには幾つかの理由があります。まず、現実の世界ではみんなそんなことはしないでしょう? 何でオンラインだとそうなるんですか? もう1つ。たいていのやり取りは公開の場所で行われるので、たいていの人はプライベートな場所に比べて自分の感情を抑えがちになります。もう少し正確に言うと、他人に対する感情(感謝や怒りなど)は表現してもかまわないと考えているようですが、内心(不安やプライドなど)は知られたくないようです。

 しかし、大半の人たちは周囲の人が自分のことをよく分かってくれていると感じていればよい仕事をしてくれます。ちょっとしたことを気にかけるだけで、状況をうまく判断できるようになります。そして、今以上に人をやる気にさせることができるようになるのです。

 もちろん、「プロジェクトのカウンセラーになれ」「皆がうまくやっていけるよう常に手助けしてやれ」といいたいわけではありません。しかし、皆がどのように振る舞っているかを注意深く気にしていれば、実際に面と向かって会ったことのない人でもどんな人なのかが何となく分かるようになるでしょう。そして、自分が何か書くときの口調に気を使うようにすれば、あなたに対する周りの印象は驚くほどよくなります。これは、プロジェクト全体にとってもよいことです。

content on this article is licensed under a Creative Commons License.

注目のテーマ