新IAサーバにみた富士通の意地Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2010年04月05日 09時36分 公開
[松岡功ITmedia]
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製版一体プロジェクトで顧客ニーズを反映

 富士通が自社開発にこだわったPRIMEQUEST 1000シリーズの真骨頂は、佐相氏と河部本氏が記者会見で重ねて強調した高信頼性と高性能にある。

 例えば信頼性では、メインフレームと同じ開発・品質保証体制をとり、内部コンポーネントの二重化・冗長化、ホットスワップ、フレキシブルI/Oと予備ボードによる自動復旧などの機能を搭載。これにより「一般的なIAサーバと比べて1けた低い業務停止率を実現している」(河部本氏)という。

 また、性能ではSAP2階層SD(Sales and Distribution)標準ベンチマークテストにおいて、Windows Server搭載サーバとして世界最高記録となる1万6000ユーザーを達成。ベンチマークテスト専用のプログラムではなく、企業ユーザー向けの実アプリケーションであるSAP ERPを用いた同記録は、PRIMEQUEST 1000シリーズがビジネス用途全般で世界最高レベルの性能を発揮できるサーバであることを証明したものだとしている。

 河部本氏によると、「世界最高性能は従来シリーズでも実現してきた。高性能と高信頼性が評価されたPRIMEQUESTは、これまで世界23カ国のさまざまな業種の企業に1400台以上採用いただき、ほとんどトラブルなく稼働している」という。

 PRIMEQUESTのこれまでの道のりは、むしろ厳しいものだった。PRIMEQUESTはもともと、メインフレームの持つ信頼性・堅牢性とオープンシステムの汎用性・経済性を両立させたサーバの戦略製品として、2005年4月に発表された。富士通としては、メインフレームで培った技術を注入したハイエンドのIAサーバを育て上げ、メインフレームからオープンへと時代が変わる中でも、ミッションクリティカルシステム市場を引き続きリードしようと目論んだ。

 2005年4月のPRIMEQUEST第1世代機の発表時、同社は全世界で3年間に1万台販売する目標を掲げた。だが実績は思惑通りに伸びず、業界の間では「富士通はPRIMEQUESTを諦めるのではないか」とさえささやかれた時期もあった。2007年10月に同社が開いたサーバ事業戦略説明会では、当時の担当役員がPRIMEQUESTについて「戦略が間違っているとは思わない。ただ(IAサーバで基幹を担うという)もともと存在しない市場を開拓していかないとこの分野は成り立たない」と語っている。

 しかし、そのころに動き始めた同社の製販一体プロジェクトが徐々に奏効し、実績が上がるようになった。その過程では、開発面での思い込みやマーケティング面での見込み違いなど、さまざまな葛藤があったとみられるが、それはまさに自社開発の戦略製品を生み出す苦しみだったといえる。それだけに河部本氏が「PRIMEQUESTの集大成」と語る東京証券取引所(東証)の次世代株式売買システムへの採用(2010年1月4日稼働開始)は、今後の同事業に大きな弾みとなるだろう。

 記者会見の質疑応答で「これまでのPRIMEQUEST事業は失敗だったのでは」と問われた河部本氏はスッパリとこう答えた。「成功だったと思っている。確かに当初は計画通り行かなかったが、徐々にPRIMEQUESTならではの市場が開けてきた。製版一体プロジェクトを通じてお客様のニーズを製品に反映できるようになってきたからだ」

 PRIMEQUESTに賭ける富士通の意地を感じたコメントだった。

新製品を前に握手する富士通の佐相秀幸 執行役員常務(右)とインテルの吉田和正社長 新製品を前に握手する富士通の佐相秀幸 執行役員常務(右)とインテルの吉田和正社長

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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