Big MathとBig Dataの融合でDWHは真のアナリティクスへENZEE UNIVERSE 2010 REPORT

「増え続けるデータにCIOは悪夢をみている」と話すのは、データウェアハウスベンダーの雄、米Netezzaのジム・バウムCEO。Big MathとBig Dataの融合により、BIはAdvanced Analyticsに進化すると説く。

» 2010年06月23日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
ジム・バウム 「Intelligent Enterpriseは実現可能だ」とNetezzaのCEO、ジム・バウム氏

 米国ボストンで6月21日(現地時間)から開催されている米Netezzaのユーザーカンファレンス「ENZEE UNIVERSE 2010」で、基調講演の壇上に立った同社CEOのジム・バウム氏は、「DWHが真のアナリティクスへと進化していく時代の流れに敏感であれ」と来場者に呼びかけた。

 データウェアハウス(DWH)ベンダーとして、独自のポジションを確立している米Netezzaは、DWH専用のアーキテクチャによる性能と簡易性を武器に、DWHアプライアンスではOracleなどの競合と堂々と渡り合っている。DWHやBI(ビジネスインテリジェンス)が一般に抱えている課題――リアルタイム性の欠如や運用管理の煩雑さ――を可能な限り低く抑えているのが同社製品の特徴だ。

 同社が2009年にリリースしてきた主な製品は、第4世代のDWHアプライアンス製品「Netezza TwinFin」、エントリーモデルと位置づける「Netezza Skimmer」、そしてオプションソフトウェアの「TwinFin i-Class」など。2010年に入ると、NECとの共同開発により「InfoFrame DWH Appliance」を発表、ソフトウェアとハードウェアが密に連携したDWHアプライアンスを市場に送り出した。NECとの連携は、アプライアンスの価値を最大化したいバウム氏にとっても大きな成果だったようで、講演ではNECとの取り組みがプロモーション映像とともに紹介された。

 しかしこの間も、分析しなければならないデータ量やその種類は爆発的に増え続けているとバウム氏。企業内にはさまざまなデータが構造化、あるいは非構造化されて存在しており、なおかつ、例えばソーシャルメディアに代表されるような企業外のデータも考慮し、さらにそれらのデータをリアルタイムに扱えなければ意味がないと主張、従来型のOLTPやRDBMSではこの変化に追従できていないと“口撃”する。

 同氏は、「増え続けるデータにCIOは悪夢をみているのではないか」とする一方で、そうしたデータを分析し、有用な因子を抽出してビジネス上の意志決定に生かすBIの価値はますます高まっていると話す。同氏は、IBMが推し進める「SMARTER PLANET」を引き合いに出しながら、個人、企業、社会のデータを活用することで、「Intelligent Economy」が実現されている今日の現象を紹介、企業においても、あらゆるデータが有機的に結びつくことで、データ主導の意志決定がさらに強固になるとし、それを「Intelligent Enterprise」と称した。

 「こうした“Intelligent Enterprise”は数年前なら夢だといわれていたことだが、すでに実現している」とバウム氏。医療、スポーツ、メディアといったさまざまな業種の顧客を壇上に招き、彼らがNetezzaのソリューションでIntelligent Enterpriseを実現している事例が語られた。

 こうしたIntelligent Enterpriseを加速させる施策として、「Netezza TwinFin」の強化を2010年第3四半期に行うことが明らかにされた。主にi-Classの強化が図られており、従来サポートしていたJavaやPython、Rなどのほか、MapReduceやHadoopもサポート対象となっている。また、複数のアプライアンス間でデータを仮想化する仕組みについて、Composite Softwareと共同で推進していくという。

DWHは真のアナリティクスへ

「Advanced AnalyticsがCIOの考えるべき戦略的な技術分野」とGartnerのドナルド・フェインベルク氏

 DWHあるいはBIはマネジメント層だけのものではなく、誰もがそれを利用してアクションを決める時代に入っているというのがNetezzaの主張で、バウム氏の言葉を借りれば、「Big MathとBig Dataの融合」により、それが加速されるということになる。

 この考えを支持したのが、調査会社GartnerのバイスプレジデントでDistinguished Analystとして知られるドナルド・フェインベルク氏。同氏は、通常、企業は特定の問題を解決するためにソリューションを導入しているのが、BIは単一のアプリケーションにひもづくものではないし、直接的には影響するわけではないものの、間接的な影響を与えていると主張した。

2010年の戦略的な技術分野として「Advanced Analytics」がとりわけ重要な意味を持つという(クリックで拡大)

 しかし、BIに対するCIOの注目は下がっていることを調査結果を示しながら説明するフェインベルク氏。これは、ライトウェイトのソリューションに目が向いているためだと指摘する。バウム氏は、従来のBIと呼ばれるものが、実はアナリティクスの一部のみを切り出しているに過ぎなかったとし、現在あるいは未来の予測を行うには、短時間かつ高度な分析が欠かせないと強調する。「アナリティクスはアナリシスではないし、もちろんレポーティングやOLTP、ましてはダッシュボードを意味するのではない」とし、BIがより現実的かつ高度に発達した「Advanced Analytics」がCIOの戦略的な技術分野として捉えられていると述べ、先にバウム氏が述べた「Big MathとBig Dataの融合」がDWHをアナリティクスに進化させるのだという論調を支持した。

フェインベルク氏が示した企業への提言。POC(Proof of Concept)の重要性を改めて強調した

パートナーとの連携強化も

 この日は幾つかの協業も発表された。1つは、EnterpriseDBとの提携。EnterpriseDBは、PostgreSQLをベースにOracle DBとの互換性を高める独自機能を実装したデータベース製品「Postgres Plus Advanced Server」を提供しているが、これを「Netezza Migrator」として販売する。位置づけとしては、すでに提供されている「TwinFin i-Class」に似たソフトウェアオプションで、Netezza MigratorはOracle製品とのプロキシとして振る舞い、TwinFinアプライアンスと連携する。

 もう1つは、オープンソースのデータ統合ツールを取り扱う仏Talendとの提携。同社は、データの抽出/変換などを行うデータ統合ツール「Talend Open Studio」やマスタデータ管理「Talend MDM」などを有し、データインテグレーションソリューションを手がけてきたが、Netezzaとの協業により、NetezzaのTwinFinアプライアンスと連携したソリューションを提供していく姿勢だ。Talendは2010年3月に日本法人を設立しており、日本での展開も期待される。


 従来のDWHシステムというと、分析に必要なデータをストレージからすべて転送して処理を行うのが一般的だったが、データ量が膨大になるにつれ、サンプリングなどの手法を用いて対処してきた。それでも処理には時間が掛かり、あたかもバッチ処理のようなものが従来型のDWHシステムだといってもよい。多くのケースで、分析に時間が掛かりすぎるため、分析サイクルが長くなり、変化の把握が遅れているのが実態だった。

 Netezzaのアプローチを端的にいうと、爆発するデータ量をFPGAなどを巧みに使いながらストレージ内でさばき、さらにDWHシステム内で分析まで行おうというもの。前者はアプライアンスという形で具現化し、後者はようやく実現しようとしているところで、その鍵を握るのが分析のための機能セット「i-Class」だといえる。

 これらを考慮すると、NetezzaはDWHアプライアンスベンダーからアナリティクスアプライアンスベンダーへと進化する過程にあるといえる。もちろんこれを最大限に生かすためには、適切な仮説を立て、それを実施、検証する分析サイクルをつかさどるデータアナリストの存在が不可欠となるが、処理が高速であるということは、同じ単位時間でさまざまな仮説を検証できるため、結果的には高い投資対効果につながる。競合他社もDWHアプライアンスを相次いで発表する中、さらにその先を行くNetezzaの動向が注目される。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ