円高でのクラウドビジネスへの影響を考えるオルタナティブ・ブロガーの視点

十数年ぶりといわれる円高ドル安の動きが日本経済に深刻な影響を与えるとされる。オルタナティブ・ブロガーの林雅之氏がクラウドビジネスの観点からその影響を分析する。

» 2010年08月26日 16時57分 公開
[林雅之,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「『ビジネス2.0』の視点」からの転載です。エントリーはこちら。)

 ここ数日、急激な円高や株安が続き、日本国内に拠点を置くメリットは非常に少なくなり、国内の産業空洞化が懸念されています。法人税制の見直しの検討も進められていますが、その効果の是非が問われるところです。

 同様に、クラウドビジネスにおいても大きな影響が出ることが予想されます。特にクラウドサービスを提供する事業者は、Amazonやsalesforce.comといったような外資系の企業が多く、国内のデータセンター経由でのクラウドサービスの検討を進めている事業者は戦略変更を余儀なくされることもあるかもしれません。

 政府では、外資系をはじめとしたクラウド事業者の誘致を推進するため、クラウド(データセンター)特区の創設を、2011年春をめどに進めています。例えば、コンテナ型のデータセンターを設置できるように、建築基準法や消防法の改正なども視野に入れています。しかしながら、このまま円高が進行するようになれば、日本国内にデータセンターを設置するというメリットが少なくなり、特区を創設してもなかなか事業者を誘致できないという可能性も否定できません。

 クラウドサービスを利用するに当たっては、パブリッククラウドに関しては、海外にある事業者のサーバにアクセスするケースが多く、利用者側としてはドルで支払いをしている場合は安く利用できるでしょう。一方、今後日本からクラウドサービスを提供し、アジアなど海外の利用者にサービスを提供する場合は、円高が大きく影響し、利益を上げることが難しくなります。

 日本の電気産業や自動車産業などの製造業は、以前と比べるとグローバル市場において、やや元気がなくなってきていると言われますが、それでも海外での展開では多くの実績を積み上げてきており、世界市場でのプレゼンスもまだまだあると言えるでしょう。国内のIT産業においても、現地法人を設置し、海外展開を強化しているところですが、クラウドサービスの海外展開においては、海外の事業者と比較した場合、大きな後れを取っているのが現状です。

 今後、円高がさらに続くことになれば、利用者は海外にある事業者のサーバにアクセスが増え、国内にある事業者のサーバへのアクセスが減少していく傾向が強まる可能性が考えられます。ネットワークのトラフィックの不均衡がさらに進めば、クラウドサービスの拡大による日本と海外間のネットワークの中立性の問題もクローズアップされるかもしれません。

 クラウドビジネスで円高のメリットを受けるためには、海外のクラウド事業者を安く買収するというアプローチは十分に考えられます。日本はクラウドビジネスで後れを取っていると言われていますが、買収による巻き返しの契機と考えることもできるでしょう。

 円高は日本におけるクラウドビジネスにおいて、プラスに影響する面もあれば、マイナスに影響する面もあります。国内外を問わず、クラウドサービスを提供する事業者は、これまで以上に円相場や株価の変動を注視しながら、クラウドビジネスの展開を進めて必要があるといえるでしょう。

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