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» 2010年10月18日 08時00分 UPDATE

Weekly Memo:クラウドビジネスは儲かるか

クラウドビジネスは収益をきちんと確保できるのか。今、IT企業の多くが関心を寄せているこの疑問を、有力事業者のキーパーソンに聞いてみた。

[松岡功,ITmedia]

SI力を生かしたNECのクラウド戦略

 NECが10月13日に開いたITサービス事業に関する戦略説明会で、2009年度実績で8663億円だった同事業の売上高を、2012年度には1兆1000億円に伸ばすとともに、売上高営業利益率も6%から8%に引き上げるという目標を明らかにした。

 増収の柱として見込んでいるのは、クラウドサービスとグローバル展開。両事業ともそれぞれ2012年度までに1000億円ずつ積み増す構えだ。これにより、2009年度でおよそ100億円だったクラウドサービスの売り上げを、2012年度には一気に1100億円へ引き上げるとともに、2009年度のITサービス事業売上高のおよそ3割だったクラウドなどのサービス事業を、2012年度には4割に拡大させたいとしている。

 一方、売上高営業利益率アップの柱として見込んでいるのは、2009年度のITサービス事業売上高の7割を占めるSI事業の収益力向上。すでに2008年度から取り組んできたSI革新活動により、不採算プロジェクトを半減、SI原価を1割強低減したとし、これをさらに進化させるという。

 具体的には、次世代開発環境「ソフトウェアファクトリ」の導入やSI革新成果のグローバルおよびサービス事業への展開などにより、SI事業のイノベーションを図っていく構えだ。中でも注目されるのは、ソフトウェアファクトリの導入である。開発物管理とプロジェクト管理をクラウドで導入し、自動化、手戻り防止、経費効率化などにより、工期3割短縮、原価2割低減を目指すとしている。

 つまり、NECが今後のITサービス事業拡大に向けて描いているのは、クラウドサービスとグローバル展開で売り上げを伸ばし、SIの収益力向上で利益も伸ばすという構図だ。同社取締役執行役員常務ITサービスビジネスユニット長の富山卓二氏は、こうした構図を描いた背景についてこう語った。

 「クラウド化といっても、今のSI事業領域からクラウドに移るのは15〜20%だと想定している。だとすると、今後はクラウドサービスと既存システム、および他社のサービスとの連携が不可欠となり、特に企業のクラウド利用においてはSIと同様、高信頼・高品質なシステムが求められるようになる。そのシステム構築・運用では、SIで培った技術力、ノウハウというNECの強みが一層生かせると確信している」

 会見に臨むNEC取締役執行役員常務ITサービスビジネスユニット長の富山卓二氏 会見に臨むNEC取締役執行役員常務ITサービスビジネスユニット長の富山卓二氏

安定した収益が見込めるストックビジネス

 ただ、NECが描いている今後のITサービス事業の構図は、利益面でいうとクラウドサービスが未知数なので、SIの収益力向上で補っていくようにも受け取れる。果たしてクラウドサービスは収益をきちんと確保できるのか。これは多くのIT企業にも共通する懸念だ。

 そこで会見終了後、富山氏にクラウドサービスのみの売上高営業利益率をどれくらいに見ているのか、聞いてみた。

 「NECのクラウドサービスは、SI力が生かせる業務アプリケーション領域に注力しているので、ITサービス事業全体の売上高営業利益率と比べてもそんなに低くなるとは考えていない。しかもストックビジネスなので、時間とともに安定した収益が見込めるようになる」

 さらに具体的な数字を挙げてほしいと迫ると、同氏はこう答えた。

 「IaaSやPaaSのみをビジネスにしているなら試算できるかもしれないが、インフラからアプリケーションまで含めると変動が大きいので、おしなべて言うのは難しい。内部での目標はあるが、まだ確証があるわけではないので……」

 富山氏は、同社で「ミスタークラウド」と呼ばれてきたオピニオンリーダーでもあるので食い下がってみたが、やはりクラウドの収益性については業界でも注目の的だけに、発言には慎重な様子がうかがえた。

 クラウドビジネスは儲かるか。マイクロソフト執行役常務エンタープライズビジネス担当の平野拓也氏にも、10月7日に同社が開いた会見で単刀直入に聞いてみた。

 「率直に言うと、現時点ではまだこれだけ儲かるといった明快な答えはできないが、多種多様なサービスが増えていく中で必ず収益をきちんと確保できるビジネスモデルになると考えている」

 こう答えた平野氏は、その意味でもクラウドサービスとオンプレミス(自社運用)環境をシームレスに利用できるマイクロソフトのクラウドが効果的だと強調した。

 ちなみに、SaaSとPaaSによるクラウドサービスを展開している米Salesforce.comの売上高純利益率は、2009年1月期で4.0%、2010年1月期で6.2%、直近の2011会計年度(2011年1月期)第2四半期(2010年5-7月期)では9.8%と、売り上げ拡大とともに利益率も着実にアップしている。

 クラウドサービスの収益性を見るうえでは同社の実績が1つの目安になるが、パブリッククラウドをほぼ専業で提供する同社と、プライベートクラウドに軸足を置くNECなどのシステムベンダーとは、収益構造も違ってくるだろう。さらにシステムベンダーにとっては、これまで主体としてきたSI事業であげてきた収益がクラウドで確保できるのかという不安がつきまとう。NECが発表したITサービス事業の戦略は、その対処策を打ち出したものといえる。

 つい最近、話を聞いた大手システムベンダー系SI企業の首脳が、クラウドについてこう語っていた。

 「SI事業との兼ね合いを含めてクラウドがビジネスになるかどうか、今の段階では分からない。でもこのパラダイムシフトを受け入れて、何とかビジネスにしていくしか生き残る道はない」

 ITサービス事業を生業としてきた企業にとっては、もはや儲かるかよりも儲けるためのクラウドビジネスモデルをどう構築し推進していくか、その経営判断と覚悟が不可欠な段階に来ているといえそうだ。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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