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» 2010年11月12日 18時47分 UPDATE

【雨天炎天】 ITmedia エンタープライズ時評:ソーシャルゲーム、クラウド2015ビジョン、APEC

クラウドコンピューティングはさまざまな企業の経済活動を支える。ソーシャルゲームのインフラからグローバル企業のビジネス基盤に至るまで。政治・経済の枠組みが変わりつつある現在、企業活動の性質も変化する。クラウドコンピューティングの役割はどのように変化するのだろうか。

[谷古宇浩司,ITmedia]

 サーバホスティング事業が現在ちょっとしたバブル景気を迎えている。ソーシャルゲームの運用インフラとして需要が急増しているためだ。

 11月11日の日本経済新聞Web刊に「カネを生むソーシャルゲームの功罪」という記事が掲載された。ソーシャルゲームが稼ぎ出す利益の秘密を丹念に追ってかなり読ませる。

 無料を謳(うた)うゲーム内世界でハイスペックアイテムを手に入れるには2つの方法がある。時間をかけてアイテムと交換可能なポイントを稼ぐか、ゲーム内で流通する仮想通貨をリアルマネー(円)で購入するか。

 少なくないユーザーが身銭を切ってアイテムを手にした方が効率的だと考えている。別の言い方をするなら、彼らはカネで時間を購入している。

 DeNAとグリーの営業利益率はおよそ50%。当たれば大きいソーシャルゲームの恐るべき収益性は、多くの企業をソーシャルゲーム事業に引き寄せる。

 ソーシャルゲームの開発はたいてい少人数で行われる。サービスの開始段階では、インフラなどへの設備投資を最小限に抑え、トラフィック量の増加に応じて、順次リソースの追加を行っていく。自前で専用サーバを構築すれば初期費用が嵩(かさ)む。保守・運用コストも無視できない金額に膨れ上がるだろう。サーバのホスティング需要がここ数年間でにわかに高まり、プチバブルの様相を呈しているのは、できるだけコストを抑えたいというサービス開発者側のニーズが供給側の予想を大きく上回ったからだ。

 しかし、ソーシャルゲームのインフラをホスティングで賄(まかな)う場合、いくつかの問題が出来(しゅったい)する。ホスティングサービス事業を展開するリンクの内木場健太郎氏によると、運用するソーシャルゲームの人気が予想以上に上がり、トラフィックが急増すると、転送量課金契約の場合、月々の請求額も予測を超えて跳ね上がってしまうというのだ。酷(ひど)い場合は人気が出れば出るほど赤字になる。そのため、サーバホスティング事業者の中には、ソーシャルゲームに特化したホスティングプランを開発しているところもある。リンクはその1社だ。

インテルの「クラウド2015ビジョン」

 11月10日〜12日、幕張メッセでは、第2回クラウドコンピューティングEXPOが開催された。10日の基調講演に登壇したセールスフォース・ドットコムの宇陀栄次社長はクラウド型顧客管理サービスの開発会社代表という視点から、近い将来、クラウド上のサービスは“作るもの”ではなく、“選択するもの”になるというビジョンを披露した。

 ここで宇陀氏は、クラウド上でサービスを使う企業の立場に立って話をしている。つまり、基幹業務システムでも情報共有システムでも何でもいいのだが、まったくのゼロからコーディングを行って独自のシステムを創り上げるのではなく、すでにある材料を組み合わせ、できあがった道具を駆使してサクサク仕事をしましょう、と言っているのである。

 素晴らしいビジョンだ。

 ただし、このビジョンにはいくつかの前提が潜んでる。しかも、それらの前提は未来に実現するという条件を含む「微妙な」前提である。すなわち、世界中(せめて日本中)どこでも使えるクラウドコンピューティングの共通インフラ基盤が実用レベルできちんと整備されること。その上で、世界中(あるいは、せめて日本中)の開発者が使い勝手のよいサービスを継続的に開発すること。少なくともこの2点の前提はクリアする必要がある。

 特に重要なのはインフラ周りだ。

 クラウドコンピューティングのインフラ整備という観点で分かりやすいイメージを示しているのがインテルの「クラウド2015ビジョン」である。

 インテルは「(シームレスな)連携」「自動化」「クライアント認識」という技術的な3つのキーワードでクラウドコンピューティングの実現可能な未来像を整理している。ビジョンと銘打っているだけに、抽象性の高い言葉が並ぶのだが、抽象に至る過程の論理は丁寧に文章化されており、インテルが発行するホワイトペーパーや顧客向けカタログで読むことができる。もちろん、Webでも閲覧可能である。

 インテルが定義するクラウドコンピューティングとは、以下の要素を満たすコンピューティングモデルのことだ。

  • 演算機能とストレージ機能が抽象化され、サービスとして提供される
  • サービスは拡張性に優れたインフラストラクチャ上に構築される
  • サービスは柔軟に構成可能な動的なリソースを通じて必要に応じて提供される
  • サービスは簡単に購入でき、従量課金方式で決済される
  • リソースは複数のユーザーに共有される(マルチテナント)
  • サービスはインターネットまたは社内ネットワークを介して任意のデバイスからアクセスできる

 インテルは、クラウドコンピューティングというものを、データセンターの仮想化をさらに進化させた形態という風に考えている。上記の条件は仮想化技術の進化によって実現する次世代型データセンターの特徴ということになる。なお、初期の仮想化技術はサーバを統合し、コスト削減に貢献した。その後、リソース管理が仮想化技術の応用分野として脚光を浴びた。さらに今後の課題として指摘できるのは、自動化機能の進化と柔軟な拡張性能だ。

 次世代型データセンターのコンピューティングモデル(=クラウドコンピューティング)をビジョンのレベルから現実のレベルに出現させる実際的な活動としてインテルは10月27日、「OPEN DATA CENTER ALLIANCE」(ODCA)の設立を発表した。

 ODCAはオープンなクラウドコンピューティング対応データセンターの実現を目指す業界団体である。設立会員に名を連ねるのはBMW、China Life Insurance Company Ltd.(中国人寿)、Deutsche Bank、JPMorgan Chase、Lockheed Martin、Marriott International, Inc.、National Australia Bank、Shell Global Solutions, Inc.、Terremark、UBSといった企業7社だ(国名は省略)。インテルは技術アドバイザーとして、この団体の活動に参加する。現時点の会員企業数はおよそ70社。いずれも市場を複数の国・地域に持つという意味のグローバル企業ばかりだ。なお、設立会員および会員企業のうちに日本企業は含まれていない。

政治・経済の枠組みが変わる

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が13日、14日に開催される。

 今回のAPECで最大の焦点は地域経済統合だ。将来的なアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向け、日本はまず環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)関係国との協議入りを決めた。この「協議入り」という表現を肯定的に捉えるか、あるいは否定的に捉えるかで、アジアにおける日本の政治的・経済的立ち位置が微妙に変わる。

 日本が「望む」「望まない」にかかわらず、世界の経済環境は劇的に変化している。今回のAPECではアジア地域の相対的な地位向上が改めて確認された。日本は「開国」を迫られている。迫られているうちが花なのか。政府・与党民主党はいま非常に難しい判断を迫られている。また、中国の動静には今後とも目が離せない。

 経済の枠組みが変われば企業の活動領域も変わる。

 情報システムは企業活動を支える重要な要素として存在しており、現在、IT業界でさかんに口にされるクラウドコンピューティングなるまさに雲をつかむような概念も、世界の政治・経済状況の変化を横目に見ながら取り扱うべき論件となるだろう。

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