苦しいときこそ雇用を増やす!? 逆説的「職場術」とは

世界的な金融危機に端を発した景気の低迷は、ボディーブローのように日本の職場にダメージを与えている。コスト削減の矛先が雇用に向けられ、多くの職場が不安定になっているからだ。ワーク・ライフバランスの小室社長は、「多様性や、仕事と私生活の相乗効果によって職場の問題を解決し、ビジネスの成果に結び付けていこう」と話す。

» 2010年12月16日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 5年前から人口減少に転じた日本は、今後急速に少子化が進み、2060年に現在の2/3に、2080年には半数になると予測されている。日本企業は想像を絶する国内市場の縮小に直面することになる。かたや中国をはじめ、アジアの新興国で中間所得層が急速に拡大していることもあり、海外市場の魅力が増している。為替市場でも円高が収まりそうになく、製造業を中心にもう一段のグローバル化が経営課題となっている。

 しかし、海外に生産拠点を移せばグローバル化、というわけではないのはご存じのとおりだ。市民の一員として日本以外の生活者に価値を提供するには、文化をはじめ、さまざまな多様性(ダイバーシティ)を受け入れ、そして身につけなければならないだろう。

ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長

 「日本企業の最大の弱みは、多様性に乏しいところだ。現場でこそ男女半々に近いが、管理職は極端に女性が少なく、役員となるとゼロ。女性ならではのビジネスのアイデアも、ほとんどが異端として扱われ、失われてしまう。とてももったいない」と話すのは、ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長。

 同じことは海外の現地法人でも起こっている。現場には外国人を雇用しても管理職が日本人ばかりでは、良いアイデアも製品やサービスとして消費者には届かない。

 「どの企業も努力しているが、多様性をビジネスの成果に結びつけられないでいる。福利厚生にとどまっており、コストばかり掛かってしまっている」と小室氏。

 また、グローバル化の波は一方向ばかりではない。いわゆる「内なる」グローバル化も進め、米国のように海外の優れた人材の知恵も生かせなければ企業の競争優位も保てないが、ここでも日本企業は弱みを抱えてしまっている。

 「優秀な外国人が日本企業で働く最大のネックは、失うものがあまりにも大きいということ。家族との絆もそのひとつ」と小室氏は指摘する。

 歓迎すべき変化もある。国際会計基準(IFRS)の任意適用が始まり、有給休暇の取り扱いが変わりつつある。これは社員に有給休暇を付与した時点で費用と認識する考え方に基づいており、IFRSが強制適用されると日本の上場企業も有給休暇の未消化分を「負債」として計上しなければならなくなる。しかし、「有給を取りづらい」という日本企業の風土が変えられるかどうかは分からない。

 「企業風土をグローバルにしていかないと、単に優秀な人材の知恵だけが欲しい、といっても難しい」と小室氏は話す。

これからは時間や場所の多様性

 小室氏はまた、「労働時間」の多様性も重要だと指摘する。日本では、少子高齢化によって生産年齢人口(15〜64歳)が既に1996年から減少に転じている。そのうえ今後は、育児や介護、メンタル疾患などの事情から休暇を取る社員が増え、日本の多くの職場が不安定になることが予想されるからだ。

 「これまでは男女雇用の多様性が重視されてきたが、これからは時間や場所の多様性が重要になる。例えば、早い時間帯だけ働ける人を企業が積極雇用すれば、時間の制約があるために労働市場から弾き出されていた女性を組み込むことができる。労働人口が減る中、優れた人材を活用しなければ、日本企業はグローバル競争には勝てない」(小室氏)

 「右肩上がりの好景気ならいざ知らず、今の苦しい時期には難しい」という声も聞こえてきそうだが、小室氏はむしろ「財務面で厳しいからこそ雇用を増やして職場を安定させるべきだ」と経営者にアドバイスする。

 ワークライフバランス(仕事と生活の調和)が取れた社会の実現を目指し、労働基準法が一部改正され、今春から施行されたのはご存じだろう。これにより、月に60時間を超える時間外労働については50%割増の残業代を支払う必要がある。人を減らしても残業が増えてしまっては逆効果だ。優れた人材も逃げ出しかねない。

 「これからの日本の会社は、育児や介護で休暇が取られ、頻繁に人が抜ける時代になる。逆説的だが、働く時間を多様化し、雇用を増やすことが重要だ」(小室氏)

 今の時代に限ったことではないが、ミドルマネジメントには仕事の多くの負荷が掛かっている。十分な人材を確保できず、プレーイングマネジャーとして奮闘する姿は痛々しい。

 「多様性やワークライフバランスのマネジメント手法は決して複雑や厄介なものではない。社員が自発的に仕事に取り組み、生産性も高めていくことができる。マネジメントは楽になり、“マネジャーはいいなぁ”という憧れの存在になるはず」(小室氏)

 厳しいときこそ、小室氏の「職場術」に逆張りすべきかもしれない。

(なお、ITmedia エンタープライズとITmedia エグゼクティブでは、小室氏が登壇する「NTTDATA Innovation Conference 2011」に特別協力しています)

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