NTT Comの新データセンターが稼働――「東京で一番安全」を目指した設備を公開

NTTコミュニケーションズは、都内5カ所目となる「東京第5データセンター」の運用を開始した。新施設は、同社の中では最高水準の防災や省電力化の取り組みを実施しているという。

» 2011年04月25日 14時07分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は4月25日、東京都文京区で建設を進めていた「東京第5データセンター」の運用を開始した。都心部のデータセンターでは最高水準という災害対策と省電力化を図ったとする新センターの内部を公開した。

NTTコミュニケーションズの「東京第5データセンター」のイメージ(保安上の理由により、実際の外観は非公開となります)

 東京第5データセンターは、同社のデータセンターとしては72拠点目、首都圏では7拠点目となる。都心から電車を利用して10数分程度でアクセスできるという立地だ(詳細住所は非公開)。建屋は延べ床面積が1万3227平方メートルで、コロケーションルーム(サーバルーム)に約1500ラックを収容できる広さ。高さは約90メートルの16階建てで、通常のマンションでは25〜26階建てに相当する。

 新センターは、同社のデータセンターの中では最高レベルの災害対策を実施しているという。水害に対しては、津波や河川の氾濫による水没を回避するために、東京湾から約5キロメートル、近隣の隅田川から約2キロメートル離れた立地にある。万一の場合でも、通信設備や電源設備、サーバルームは3階以上に設置しているため、水没の可能性はほとんど無い。

 地震対策では、通常の高層建築の2倍に当たる地盤強度のN値が60以上の地盤を選び、この地盤に届く深さ20メートル以上の杭を打ち込んでいる。建屋の地階にある免震ピットには、「鉛プラグ入り積層ゴム支承」や「弾性すべり支承」「特殊ダンパー」などの免震装置を設置。地震の加速度を最大でも200ガル以下に抑え、地震の揺れで地盤が最大60センチメートルの動いても建屋には影響がない設計だという。

弾性すべり支承装置の地震時の動作

 3月11日に発生した東日本大震災では、都心で「震度5弱」の揺れを観測した。当時はセンター内部で工事が行われていたものの、設置済みの免震装置が動作して、建屋や作業担当者への被害はなかった。後日調査の結果から、地震の加速度は100ガル以下であり、建屋が43ミリメートル動いていたことが分かった。同センター周辺では、東京大学工学部で最大218ガル、国立西洋美術館では265ガルを記録していたという。同社の担当者によれば、免震構造の建物では免震装置によって、地震の強い揺れが長い時間続く大きなゆったりとした揺れに変化するため、サーバなどの電子機器に伝わる地震の衝撃を軽減できるメリットがある。

電源対策

 電源供給は、東京電力から6万6000ボルトの特別高圧受電を2系統確保している。サーバルームまでは、さらに高電圧直流給電(HVDC)を採用し、交流と直流の変換や変圧に伴う損失を抑えるようにした。

 非常用ガスタービン発電機も5基(4基+予備1基のN+1構成)を設置。停電時には無停電電源装置(UPS)から10分程度給電される間に、ガスタービン発電機が約40秒で起動する。ガスタービン発電機は24時間無給油で稼働できる。石油会社と優先供給契約を結んでおり、停電が2日以上に及んだ場合でも自家発電で対応できるとしている。

サーバルーム

 入館申請からサーバルーム内に入るまでには7段階のセキュリティチェックを導入している。まず入館者や権限などの情報をWeb上で申請し、入館時に写真付きの身分証明書で確認する。この時に指静脈のパターンを入館カードキーに登録する。館内への出入りやフロアの移動、サーバルームへの入室は基本的に入館カードキーと生体認証で行う。セキュリティゲートは、複数人が同時に入ることを防ぐ「共連れ」を防止する対策が徹底されている。

カードキーと生体認証によるセキュリティゲート。来館者は事前に設定されているエリアしか立ち入ることができない

 サーバルーム内は、ラックスペースと空調設備が壁で仕切られている。ラックは奥行き1×高さ2×幅0.7メートルの40Uサイズで、耐荷重は約500キログラム。冷却は空調機からの冷気を床下から取り入れ、ラック上部から空調機に戻す天井リターン方式を採用する。空調機はNTTファシリティーズが開発した最新のもので、一般的な機器比べ冷却効率が40%高いという。ラックへの供給電源は単相100/200ボルトもしくは三相200ボルトに対応する。窒素ガスによる消火システムを採用しており、わずかな煙の粒子でも感知して動作する高感度煙感知機が備えられている。

省エネ

運用効率に優れた空調システム。各地にある同社のデータセンターで使用されている

 建屋全体は、事前に工場で作成したコンクリート構造物を現場で組み上げていく「プレキャスト工法」を採用した。鉄骨構造に比べて建屋全体の外部熱負荷を抑えられるほか、工期も短いのが特徴。壁面緑化を行っているほか、外壁に30キロワットの発電能力を持つ太陽光発電パネルを多数設置している。

 屋上には雨水を貯留して、空調システムの室外機周辺に散布するシステムを設置した。これによって夏場には室外機周辺の気温を数度下げることができ、空調システムの熱交換効率を高めることができるという。こうした取り組みで、同センターの設計上の電力使用効率はPUE値で1.45以下になる見込みだ。

 東日本大震災が発生して以降、同社のデータセンターサービスに対する企業からの問い合わせは首都圏地区で約2倍に、関西地区で約3倍に急増しているという。震災によってユーザーが自前で運用していた設備が被害を受けたことで、通信事業者などに運用を委託するケースや、夏場の首都圏での電力不足に備えて関西地区にバックアップ設備を構築したいといったケースが目立っている。

 「既設のセンターには若干の余裕がある」(同社担当者)としているが、新センターを利用しての顧客対応を急ぎたい考えだという。

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