「競合各社とはこう闘う」――MicrosoftのターナーCOOMicrosoft WPC2011 Report

Microsoftのパートナー向け年次イベントではアワード授賞のほか、競合相手に対する“徹底抗戦”ぶりが披露された。それに呼応したゲストスピーカーのメッセージは実に印象的である。

» 2011年07月14日 17時00分 公開
[渡邉利和,ITmedia]

 米Microsoftのパートナー向け年次イベント「Microsoft Worldwide Partner Conference 2011(WPC 2011)」が7月10から5日間の日程で、米カリフォルニア州ロスアンゼルスで開催されている。3日目にはCOOのケビン・ターナー氏による講演や、英Virginグループのリチャード・ブランソン氏を迎えてのセッションが行われた。

パートナーとともに目指す勝利

 WPC 2011の規模は、昨年と比較しても明らかに拡大している。世界各国から参加するパートナー企業の数が増加しているのはもちろん、アワード受賞の企業数にもそれが現れているようだ。昨年は「アワード授賞式」という形でまとめて行われていたと思われるが、今年は基調講演の中で一部のアワード受賞者が紹介されるという形式である。

 3日目に紹介された「Microsoft Country Partner of the Year」では、今年の受賞者は92カ国/92社となった。これまでのように1人ずつステージ上で表彰するのでは時間が足りないためか、今回は自国の国旗を掲げて中央のステージに一斉に介するという、オリンピック開会式のような華やかな演出がなされた。日の丸を掲げて入場したのは、弥生 代表取締役社長の岡本浩一郎氏である。

92カ国(各国1社)の“Country Partner of the Year”受賞者がそれぞれの国旗を掲げて中央ステージに集合。“世界大会”ならではの華やかな演出となった

 また、同社のパートナー支援の中核となる「MPN(Microsoft Partner Network)」のアップデートについて、WPCのホスト役を務めるジョン・ロスキル氏が説明を行った。「パートナーに対して提供される支援がこれまで以上に手厚くなった」ということであるが、特筆すべきなのは、パートナー自身のクラウド環境への移行の支援が特に手厚く見えるという点だ。

 これは、パートナーがエンドユーザーにクラウドへの移行を勧めるのであれば、まずは自身がクラウドへの移行を済ませておくべきだという考え方である。パートナーに無償で提供されるクラウドサービスや技術支援などが、より充実したとのことである。ロスキル氏のパートナーに対するメッセージは「Winning Together!(ともに勝利を)」というものだった。

ケビン・ターナー氏

 続いてCOOのケビン・ターナー氏が登壇した。同氏はビジョンとしてのクラウドではなく、クラウドビジネスを実際にどうやって成功に導くかという詳細に点に触れた。例えば同社のクラウドサービスであるOffice 365やWindows Azure、SQL Azureなどを語る際に、「クリティカルであり、重要な存在なのがSystem CenterとActive Directoryだ」と指摘するほど、同氏はシステム導入を成功させるために細かな注意点までに目を配っているとの印象である。

 同社が掲げた今年度(2011年7月〜2012年6月)の目標は、「クラウドサービスで勝つ」「エンドユーザー/コンシューマ分野で勝つ」「検索/広告掲載で勝つ」「(携帯)電話で勝つ」「Windows 8をARM/SoCにも展開する」という5つだ。そして同氏は、この5つの目標には相応な規模の研究開発投資を行っていることも強調した。

Microsoftの2012年度の「大きな賭」

 ターナー氏はまた、戦術をどのように遂行するかという観点からも、具体的な目標を掲げながらパートナーに取り組んでほしいという点を紹介した。それは、“サジェスチョン”を織り交ぜた形であった。例えば、同氏はWindows XP/IE6というプラットフォームについて、「たくさん売れた製品で、われわれはXPを愛している。でも、もうXPは死んだんだ」と語って会場を沸かせた。Windows XPのEoL(End of Life)が2014年に迫っていることを改めて強調したが、これはパートナー各社に、「まだXP/Office 2003という環境を使っているユーザー企業がいればアップデートを勧めるべきだ」というという提案である。このような形で、パートナー各社がビジネスを拡大していくために取り組むべき直近のテーマを示したということだろう。

大きな成功を収めた「Windows XP/Office 2003/IE 6はもう死んだ」と訴える

 続いて、恒例のプレゼンテーションである、競合各社からシェアを奪うための取り組みを紹介した。ここでは自社のパートナー向けとあって、競合相手に対する“歯に衣着せぬ物言い”が会場を沸かせていた。

 クラウドサービスで競合するGoogleについて、ターナー氏は「Google Appsの機能はOffice 365とは比較にすらならないレベルだ」などと語った上で、一度はGoogle Appsに奪われたものの、同社のクラウドサービスに奪い返した(Winback)というユーザー企業を挙げた。その上で「残念ながら彼らは、一度は間違った判断を下してしまったが、われわれは彼らをそのミスから救い出すことができた」と語り、会場から大歓声を浴びていた。

Google Appsとの競合で勝ち取ったという顧客企業のリスト

 続いて、「Google Appsは一見すると安価に見えるが実は隠れたコストが高く、トータルでは決して特にならない」といったデータを披露した。パートナーがユーザー企業に提案を行う際の素材を提供しているということだろう。今年のWPCで最も攻撃されたのはGoogleだったが、その他に同氏の俎上(そじょう)に上がった競合企業は、Oracle、salesforce.com、VMware、Appleだった。同氏の基本的な姿勢は、「われわれは、みなビジョンによってモチベーションを高めていくが、勝利を得るのは実行によってのみだ」というものであった。少々“泥臭く”も見えるが、実際のビジネスを推進していくための具体的な戦術をきちんと整理してパートナーに提示するために、WPCが重要な存在となっているようだ。

 同日の講演の最後は、英Virginグループ会長のリチャード・ブランソン氏とジョン・ロスキル氏による対談である。ブランソン氏は冒険家としても名高く、最近では民間宇宙旅行の実現に向けて取り組んでいることもよく知られた人物であり、来場者の関心は高かったようだ。

 対談は、事前に来場者から寄せられた質問にブランソン氏が答えるという形式で進んだが、印象的だったのは、競合相手に対する姿勢について同氏が、「誰かと敵対関係を続けるには人生は短すぎるし、世界は狭すぎる」と語った点だ。対立よりも相互理解を深めて友好的に接するように心がけているという。直前にターナー氏が徹底抗戦をアピールしたが、その後に聞かれたブランソン氏の哲学は、会場に集まったパートナーにはどのように聞かれたのだろうか。

リチャード・ブランソン氏。競合と相対する姿勢について感慨深いコメントを残した

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