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» 2011年10月28日 08時00分 UPDATE

ベクトルマシンの“次”を垣間みた:震災を乗り越えた東北大のスパコンが目指す未来 (1/2)

東北大学が運用するスーパーコンピュータは、3月11日の東日本大震災に耐え、現在では震災前と同じように研究開発分野で活躍している。震災時の状況やスパコンの将来像などを東北大学に取材した。

[國谷武史,ITmedia]

 東北地方に深刻な被害をもたらした3月11日の東日本大震災。“杜の都”仙台では震度6強を観測した。市街地にほど近い東北大学では、3人の学生が亡くなり、キャンパス内の施設や研究設備に多くの被害が発生した。この大規模災害に直面しながらも、サイバーサイエンスセンターが運用するベクトル型スーパーコンピュータは、かろうじて被害を免れ、震災前と同じように日本の最先端の研究開発分野を支え続けている。

 東北大学ではスーパーコンピュータがどのように利活用され、将来はどのように発展していくのか――。震災当時の状況も交え、サイバーサイエンスセンターの小林広明センター長・教授(工学博士)に伺った。

ベクトルマシンにこだわり

tohokuuniv001.jpg 東北大学 サイバーサイエンスセンター 小林広明センター長・教授(工学博士)

 東北大学サイバーサイエンスセンターは、1969年に「全国共同利用型大型計算機センター」として設立。国立大学としては、東京大学に次いで2番目に古い歴史を持つ。2008年に現在の組織になり、「全国の学術研究者への計算機資源の提供」「人材育成」「次世代計算機の開発」という3つの役割を担っている。スーパーコンピュータの運用は、1985年に導入したNEC製の「SX-1」が最初で、それ以降も歴代のSXシリーズを採用。NECとはパラメトロン計算機の開発を契機に、半世紀近くにわたって大型コンピュータの開発で協働しており、2010年には、NECのExpress 5800シリーズがベースのスカラー型マシンも導入した。

 現在、同センターの主力として活躍しているのが、ベクトル型マシンの「SX-9」だ。SX-9のファーストユーザーとして、2008年11月に16ノードで運用を開始し、2010年には2ノードを追加した。東北大では長年にわたってベクトル型マシンが主役を担ってきたが、その理由はベクトル型マシンが得意とする大規模シミュレーションでの利用が多いためである。

 今回の震災に限らず、宮城県は地震の発生が多い地域であるだけに、東北大では地震予知などの研究が盛んに行われてきた。小林センター長によれば、地震などのシミュレーションでは大容量データを高速処理しなければならず、スカラー型マシンよりもメモリの性能を引き出せるベクトル型マシンの方が研究者のニーズに応えられるからだという。

 東北大のSX-9は、2008年11月に参加した「HPCチャレンジアワード」で28の評価項目のうち19項目で世界最高性能を記録した。スーパーコンピュータの性能を測る指標としては、ピーク性能を測るLIMPACKベンチマークのTop 500が有名だが、HPCチャレンジアワードは計算機システム全体としての性能に注目している。

 2008年のHPCチャレンジで東北大のSX-9は、LINPACKベンチマークのトップだった米オークリッジ国立研究所のスカラー型マシン「Cray XT5」に比べると、ピーク性能としては約50分の1の26.2テラFLOPSだったが、大規模シミュレーションなどに用いる高速フリーエ変換による演算(グローバルFFT)ではその差が5分の2にまで縮まり、実行効率では23倍高い性能を達成した。

 なお、2010年11月のHPCチャレンジアワードでは東北大と同じくSX-9を利用する海洋研究開発機構の「地球シミュレータ(ES2)」がトップだった。また、2011年6月のLINPACKベンチマークでは理化学研究所と富士通が共同開発するスカラー型マシン「京」がトップに立った。ピーク性能でも総合性能でも、現時点では国産のスーパーコンピュータは世界最高水準にあるといえるだろう。

 最近は汎用機をベースとするスカラー型マシンが、コスト対性能の点で注目を集める。だがHPCチャレンジアワードの結果に見られるように、大規模シミュレーションなどの利用にはベクトル型マシンが適しているようだ。これについて小林センター長は、「ユーザーの求める結果をいち早く手にできる最適な手段とリソースを提供していくことが大切」と話している。

 東北大のスーパーコンピュータを利用しているのは、54%が学外の学術研究機関で、学内は39%、7%が民間企業などとの産学連携である。学術利用では上述した地震解析以外に、気象解析やアンテナ開発での電磁波解析など多数の実績がある。産学連携は、2010年度まで文部科学省の支援事業として実施してきたが、2011年度からは東北大の自主事業となり、従来以上に注力しているところだという。

 この産学連携からは、水力発電機のタービンの設計や垂直磁気記録装置、地雷探知地下レーダーの開発といった「ものづくり」の分野で成果が生まれている。三菱航空が国産ジェット機として開発し、事業化を進めている「Mitsubishi Regional Jet」の設計にも東北大のSX-9によるシミュレーション解析結果が活用された。工業製品の開発のような用途で、ベクトル型マシンは不可欠な存在となりつつある。

tohokuuniv002.jpg サイバーサイエンスセンター2階に設置されたNECのSX-9(16ノード)
tohokuuniv003.jpg 同1階ではSX-9(2ノード)とスカラー型マシン(6ノード)が稼働する
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