需要再燃でECMに新たな風? 専業ベンダー2社のトップに聞く

日本企業の「エンタープライズコンテンツ管理(ECM)」に対するニーズが高まっているとして、専業ベンダー2社のトップが相次いで来日。日本市場での事業強化を表明した。

» 2012年05月28日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 エンタープライズコンテンツ管理(ECM)市場は、2008年の金融危機を契機にした企業のIT予算縮小化のあおりで停滞したものの、2011年の震災後は事業継続を強化する手段として再び注目されるようになったといわれる。こうした中、ECM専業ベンダーの英Alfresco Softwareと米Hyland Softwareの首脳が相次いで来日、日本市場での事業強化を発表した。

 市場ではIBMやMicrosoft、EMC、Oracleといった大手ベンダーの存在感が強いが、独立系の2社が日本進出を進める狙いはどこにあるのか――Alfrescoのジョン・ニュートン会長兼CTO、Hylandの会長兼CEOのA.J.ハイランド氏に話を聞く。

オープンソースやソーシャルが潮流に

Alfresco Software ジョン・ニュートン会長兼CTO(最高技術責任者)

 Alfrescoはオープンソースベースの商用版ソフト「Alfresco Enterprise」を展開する。導入企業はSAPやGoogle、野村証券、パナソニックなど約2200社で、オープンソース版も450万件のダウンロード実績があるという。同社は日本法人設立と最新版製品「Alfresco Enterprise 4」、クラウドサービス「Alfresco in the Cloud」日本語版の提供を発表した。

 2005年創業の同社はECM市場では後発企業だが、ニュートン氏はEMCが買収したDocumentumを創業者としても知られ、SAPが買収したBusiness Objectsの元COO、ジョン・パウエル氏らとAlfrescoを設立した。オープンソースの分野からドキュメント活用技術の新たな可能性に取り組む。

 「オープンソースコミュニティーの協力を得られる点は強い。ライフサイクル管理やアクセスコントロール(閲覧や編集などの権限)、業務アプリケーション連携といったECMの基本機能は大手と肩を並べるところにまで来ており、米国防省が定める文書管理基準もクリアしている」(ニュートン氏)

 日本市場進出については、「海外で金融や公共、製造の3分野を中心に多くの顧客を獲得でき、この実績なら保守的な日本市場でもオープンソースソリューションが受け入れられると判断した」と話す。

 ニュートン氏がECMで狙うのは、企業ネットワークの“壁”を超えたドキュメント活用の世界だという。「大切な文書はファイアウォールの内側にある。ファイアウォールの外側でもビジネスパートナーや顧客と安全にシェアできれば、企業のビジネスに大きく貢献するだろう」

 最新版製品やクラウドサービスはこれを体現したもので、適切な管理手法やセキュリティを確保しつつ、ドキュメントをさまざまな関係者がシェアする仕組みを提供。モバイルデバイスからの利用や外部のクラウドサービスとも連携する。「ここでもオープンソースコミュニティーの協力がある。DropboxとつながるECMはほかにないだろう」という。

 大手ベンダーの製品とは一線を画した特徴を日本企業に訴求する方針。「ユーザーがほしい機能をすぐに実現する。だが“適切な文書管理”というECMへの信頼をわれわれが担保する。そうしたメリットを提案したい」と話す。

ECMは情報管理の中枢であるべし

Hyland Software A.J.ハイランド会長兼CEO

 1991年に創業したHylandは、ECMベンダーの中では老舗企業。同社製品「OnBase」の採用社数は2011年に1万社を突破し、近年は年間1000社近いペースで増加。国内ではPFUがパートナーとなって金融業界を中心に約80社が採用する。

 創業者でもあるハイランド氏は、「ECMの利用企業はまだそれほど広がっているとは言い難く、導入企業の社内でも活用しているユーザーが限定的なところもある」と話す。その一方で。「活用」をより重視する傾向が強まっており、同社ではこうしたニーズへの対応を進めている。

 元々OnBaseでは機能ごとや外部アプリケーション連携(OracleやSAP、Microsoft)など150種類のモジュールが用意され、ユーザーはこれに金融や文教、医療といった業界別のテンプレートやサービスを組み合わせ、特別な開発をしなくてもカスタマイズに近いシステムが組める点が特徴。さらにモバイル活用機能やクラウドサービス「OnBase Online」を提供済み。

 クラウドサービスは国内からも利用できるが、業界によっては国内での文書保管を求めるといった規制があることから、ハイランド氏は日本にデータセンターを設置することも検討中だ。また今夏にリリース予定の最新版は、モバイル端末ごとに最適な文書フォームでドキュメントを表示する機能や、OCRで電子化した文書にメタデータを自動的に付与して検索や管理がしやすくなる機能も提供して、ドキュメント活用シーンの広がりを打ち出す。

 ハイランド氏は、「他社をみると開発ペースが停滞したり、ECM本体とは離れた機能を“ウリ”にしたりと、ECMの位置付けがあいまいになってきた」と指摘する。大手各社が買収などによってECMソリューションの拡大を進めたのは2000年代中盤のこと。企業で扱われる文書の電子化や、e-文書法のようなコンプライスの高まりがきっかけとなり、各社ではERPなどのエンタープライズアプリケーションやビジネスプロセスマネジメントなどとECMの連携を特徴として打ち出すようになった。相対的にECM自体へのユーザーの関心が薄れてしまったという。

 「当社はECMが企業の情報活用の中核であるべきと考えている。実際に近年の新規ユーザーは大手からの移行が多い。ドキュメントをいかに活用するかという点で柔軟性の高い仕組みを、より多くのユーザーに提案していきたい」(ハイランド氏)


 従来、ECMはコンプライアンスなどの必要性から「管理」が主な目的だったが、最近ではクラウド連携やモバイルデバイスなどドキュメントを活用する環境の広がりで、それらに対応する新たな機能を備えつつある。

 それでもAlfrescoのニュートン氏は、「ドキュメントを蓄積して管理する“ファイルサーバ”的な使い方だけではいけない」と話し、管理が主体の伝統的なECMのイメージを払しょくしたいと考える。Hylandのハイランド氏も、「ナレッジワーカーがドキュメント探しに使う時間は一週間で24時間近くに上るとも言われる。ドキュメントを活用する仕組みが重要だ」と述べている。

 また映像や画像といったマルチメディアデータの企業での取扱量の増加も、ECMニーズが高まる要因に一つとされる。この部分で大手ベンダー、専業ベンダーともメタデータによる効率的な管理、検索による発見・活用のしやすさを打ち出す。こうしたECMをめぐるトレンドの中でのベンダー各社の動きが注目される。

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