2013年新春インタビュー

顧客視点と合理性のバランスにヒントあり ベライゾンジャパン・平手社長2013年 「負けない力」

企業の成長にグローバル化は避けて通れないと言われて久しい。米通信大手Verizonの日本法人トップを務める平手智行氏は、「多数の顧客ニーズに向き合っていける基盤が不可欠」と語る。

» 2013年01月15日 10時00分 公開
[聞き手:國谷武史,ITmedia]
平手社長 ベライゾンジャパンの平手智行 執行役社長

 企業の持続的な成長のために海外進出が不可欠と言われるようになって久しい。しかし、国内市場と海外のさまざまな市場は風土も文化も大きく異なり、その事業展開には多くの苦労が伴う。米通信大手Verizonの日本法人、ベライゾンジャパンの平手智行 執行役社長は、「市場ごとに違う顧客ニーズへ向き合えるかどうか。そのための仕組みが『負けない力』になるでしょう」と話す。

 近年は、世界市場における日本企業の存在感が年々低下しているという指摘も多い。その理由を平手氏は、日本企業が戦後67年間にわたって2割の顧客、つまり、「お得意様」のニーズをくんだ商材で収益の大半を生み出すというビジネスモデルに依存し続けてきた結果とみる。「お得意様」のニーズが低下すれば、自ずと収益も低迷する。

 企業が持続的な成長を遂げるには、海外に進出して現地の市場を新たに開拓するか、成熟市場に付加価値の高い商材を投入してニーズを再度喚起するしかないものの、後者の場合、成長の余力には限度があるという。

 「高い成長率を達成するには海外進出をせざるを得ず、ニーズをくむべき顧客の割合を2割から4割、6割へと広げなければなりません。しかし、2割の『お得意様』に依存してきた企業には、ロングテールのニーズを吸い上げる仕組みがありません」

 国や地域によって市場の需要は大きく異なる。企業には市場ごとにきめ細かい対応が要求されるが、その一方でグローバルビジネスを展開する上での効率性も無視できない。近年の円高で日本企業による海外企業の買収が進んだものの、日本とは歴史も風土も異なる海外企業のオペレーションを日本流に統合するのは容易ではない。

 平手氏は2012年1月に現職に着任するまで、25年にわたって日本IBMで顧客企業のグローバルビジネスの支援をしてきたという。IT業界での経験と現在の通信業界を俯瞰して同氏が感じるのというのは、グローバルビジネスを効率的に動かしていく合理性と、市場ごとに異なる環境へ対応していくことのできる柔軟性とのバランスだ。

 例えば、日本企業のIT予算の7割は保守やメンテナンスのコストだといわれる。日本が強みとする信頼性や安定性といった品質を確保する上で不可欠とみる向きもあるが、平手氏はグローバルビジネスではそれが過剰になる場合もあると指摘する。

 「日本のIT環境は長く使えることが重視されてきました。今は既存のIT環境を翌年も同じように使うことが難しいほど、ビジネス環境が激しく変化する時代。合理化されたグローバル共通の仕組みを取り入れて運用コストを引き下げつつ、新しい環境へ適応するための投資を増やす必要があるわけです」

 平手氏によれば、米Verizonの歴史はこうした取り組みの積み重ねてきた結果という。米国では1980年代から1990年代にかけて通信市場の規制緩和が進み、企業間の激しい競争が繰り広げられた。同社の源流は米国東部の地域通信会社(Bell Atlantic)だが、買収・合併の繰り返しとグローバル化の流れの中で、現在は150カ国、2700以上の都市を結ぶ80万キロのネットワークを運用する。同社の負けない力は、「ネットワーク」「データセンター」「セキュリティ」の3つだという。

 「6大陸をつなぐバックボーンに直結した250以上のデータセンターでは物理環境と仮想環境、さらには、外部のパブリッククラウドをほぼ同一のシステムとして利用できる環境を構築しています。セキュリティでは世界中に約100万カ所の『ハニーポット(悪質な通信などを検知するための仕組み)』があり、収集したログ情報をセキュリティインシデントの調査や分析に利用しています」

 平手氏は、同社のインフラとは、グローバルでIT環境を共通化しつつも、ある程度は現地の市場環境にも適用できるようにしたいという企業のニーズに対応してきた結果だと強調する。「プロダクト優先では顧客には受け入れられないでしょう。当社の負けない力は、顧客の抱える課題や問題にどう応えるかという視点が原点にあります」

 これからの日本企業にとって必要な負けない力とは、「合理性と柔軟性のバランス」と繰り返す平手氏。こうした視点で構築した基盤が負けない力の原動力になるだろうと話している。

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