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» 2013年02月06日 08時00分 UPDATE

クラウド ビフォア・アフター:クラウドで経営基盤の再構築を進める東北の中小企業

東日本大震災後、東北沿岸部の被災地の中小企業では、自社のサーバやパソコンが流され、経営にかかわる多くの情報を喪失するといった被害を受けた。被災地では中小企業の経営基盤の再構築が急がれており、政府は、被災地での中小企業の再生支援において、「クラウドサービスの普及による中小・ベンチャー企業支援」の取り組みを進めている。

[林雅之,ITmedia]

被災地にクラウドサービスを無償で提供

 中小企業庁では、平成23年度の第三次補正事業から「IT・クラウドを活用した中小企業経営基盤強化事業」を採択し、全国商工連合会と都道府県商工連合会が窓口となり、「中小企業復興応援パック」を展開している。

全国商工会連合会の中小企業復興応援パックに関するWebサイト 全国商工会連合会の中小企業復興応援パックに関するWebサイト

 早期の復旧・復興が課題となる宮城、岩手、福島県の中小企業においては、財務管理に加えて、販売管理、給与管理、経費精算なども含め、効率的な経営管理を可能とする包括的なクラウドサービスの先行的導入を進めている。

中小企業復興応援パックの概要 中小企業復興応援パックの概要

 販売管理、給与計算、経費精算については、中小企業向けSaaS提供サイト「J-SaaS( ジェイ・サース)」からスマイルワークス社の「ClearWorks」を提供し、宮城、岩手、福島県の中小企業を中心にアカウントを無償で配布している(2013年3月末まで)。

 「中小企業復興応援パック」の導入に向けて、宮城、岩手、福島県の各都市でセミナーや勉強会、設定支援などを行っている。特に沿岸部の被災地では、本事業の担当者が月2回程度、現地に足を運び、設定から運用方法まできめ細かな支援を行なっている。

クラウドを体感してメリットを見出す

 実際の導入事例をいくつか紹介する。

「中小企業復興応援パック」の導入に向けたセミナーの模様(2012年8月2日 岩手県遠野市まちおこしセンター) 「中小企業復興応援パック」の導入に向けたセミナーの模様(2012年8月2日 岩手県遠野市まちおこしセンター)

 被災地では、復興需要などもあり、人の出入りが激しい状況にある。そのため、本サービスを利用した給与計算のニーズが高いという。

 また、水産加工施設の復旧に伴い、水揚げの受け入れ態勢も整ってきており、水産加工の販売管理、仕入管理、在庫管理などを行いECサイトと連携させるといった事例もあるという。沿岸部で水産加工の業務を行うためには多くの支援が必要であり、クラウドサービスを短期間で導入することで、水産加工に関する本来業務に集中できるといったメリットもある。

 被災地の中小企業では、会社のサーバやパソコンにデータを入れるということは必ずしも安全でないことを実感しており、安全にデータを保存し柔軟に利用可能なクラウドサービスへのニーズが高まっている。しかしながら、地方における共通の課題ではあるが、東北地方においても中小企業の担当者のクラウドサービスに関する認知度はかならずしも高くなく、導入方法が難しく、導入や運用費用が高いというイメージを持っているケースが多いという。

 ただし、無償でクラウドサービスを導入してみると、その後は有償でも利用を続けたいと回答する中小企業も多いことから、まずは、実際に体感する環境から作っていくことが重要なステップであると考えられる。例えば、中小企業の担当者にクラウドサービスのメリットを説明する際には、タブレットとクラウドサービスと組み合わせて気軽に利用できる点を、操作しながら説明することで、理解を深め実際の導入につなげている。

 これまで中小企業では、クラウドサービスの導入に関心のある経営者や担当者が採用を検討し、導入を進めるケースが一般的であった。今回の東北における中小企業復興応援パックの無償提供によって、クラウドサービスに対してあまり知識のない中小企業が活用し、経営に生かす仕組みづくりを支援できる土台が作られた点は大きい。

 現在、中小企業の復興にあたって、政府によるさまざまな支援が行われている。今回の応援パックの取り組みは、2013年3月末には無償提供が終わり、その後は有償での利用となる。被災地において政府の補助金頼みではなく、いかに企業の現場が、震災から立ち直り、自分たちのビジネスで稼げるようにし、軌道に乗せていくかということが重要なテーマとなる。

 中小企業では、経営者の高齢化が進んでおり、今回の震災で被災地では、二代目の事業継承の問題が顕在化しているという。また、雇用の維持が困難な中小企業は競合会社に雇用を継承するといったことも見られる。今、被災地では震災を機に、中小企業の事業の再構築が進もうとしている。中小企業が事業を再構築し、クラウド活用による経営を可視化する取り組みは、地方における中小企業のクラウド活用の1つのモデルとなっていくことだろう。

著者プロフィール:林雅之(はやしまさゆき)

 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(ICT企業勤務)

ITmediaオルタナティブ・ブログ『ビジネス2.0』の視点

2007年より主に政府のクラウドコンピューティング関連のプロジェクトや情報通信政策の調査分析や中小企業のクラウド案件など担当。2011年6月よりクラウドサービスの開発企画を担当。

国際大学GLOCOM客員研究員(2011年6月〜)。クラウド社会システム論や情報通信政策全般を研究

一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) 総合アドバイザー(2011年7月〜)。

著書『「クラウド・ビジネス」入門


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