社員のアイデアを抜擢 年率2ケタ成長を描くシステムサポート田中克己の「ニッポンのIT企業」

古都・金沢市に本社を構えるシステムサポートは、社員が主体となって考案する新規事業企画を積極的に取り込む「いいね!やってみまっし制度」をビジネス成長の核としている。

» 2013年11月19日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

「田中克己の『ニッポンのIT企業』」 バックナンバー一覧


 石川県金沢市に本社を置くSI事業を展開するシステムサポートが年率15%成長を続けて、3年後に売上高100億円を目指す事業計画を作成した。その成否を握るのが「いいね!やってみまっし制度」だ。社員が主体的に新規事業を企画し、立ち上げるもの。小清水良次社長は「成長の源」と確信し、社員とともに成長路線を走る考えだ。

有望ビジネスは社員のアイデアによる

 1980年に設立したシステムサポートは、データ入力から事業を開始した。だが、バブル崩壊後、厳しい経営状況に陥った同社は、約20年前に小清水氏を社長に就けるとともに、システム構築へと事業内容をシフトする。売り上げは順調に推移し、社長就任時の約3億5000万円から2013年度(2013年6月期)には約70億円(単体売上高は約52億円)に達した。社員も約550人になる。

 売り上げ拡大は、事業内容を着実に広げてきたことによる。それは現在の売り上げ構成から分かる。ビジネスシステムインテグレーション(SI)の25%を筆頭に、ERP関連(SAP製)の20%、業務支援(保守・運用)の13%、データベース(DB)ソリューション(オラクル製)の13%と続く。新しく立ち上げた事業が業績に大きく貢献したということだ。しかも、ユーザーとの直接取引が3年前の約3分の1から、現在は半分を占めるまでに増えた。

システムサポートのサービス領域(同社サイトより) システムサポートのサービス領域(同社サイトより)

 小清水社長はその理由を、「社員が経営主体となり、ビジネスを推進したこと」と話す。例えば、オラクルDBの資格を取得したある社員が中心になって、DB関係者とのパイプを太くしてDBを活用したソリューション事業を充実させていった。2年近く前に始めたアマゾンのクラウドサービス(AWS)を活用した事業も、地元財団法人の石川県産業創出支援機構の支援を向けて、東京大学先端科学技術研究センターと共同開発するゲノム情報のデータ解析に必要なデータベース構築につなげた。社員が新しい企画を出しやすい職場環境にしたのだ。

 「優秀な人材が、有望なビジネスを立ち上げている」(小清水社長)。それを約1年前に制度化したのが、「いいね!やってみまっし制度」だ。3年前に事業計画を作成した際、掲げた「システムサポートらしさ」と「主導権化」を実現する手段でもある。簡単に言えば、下請けではなく、ユーザーとの直接取引で貢献すること。しかも、強みにする。

赤字でも将来性を見て判断

 「いいね!やってみまっし制度」は、社員のやる気を引き出すものにも思える。「自分で考えた仕事を自分でやってみる。やりたい人にやらせるほうが成功する」(小清水社長)。2013年に新設した大学事業開発室はその1つだ。ERP関連事業を担当する社員が大学に売り込んでいるさなか、文部科学省などから来る各種アンケート調査への回答に困っていた大学があった。そこをシステムで支援する仕組みを提案したところ、小清水社長らが「有望」と判断し、専門組織を設置した。もちろん、責任者には提案者が就いた。

 こうした社員のアイデアは、小清水社長が指名したメンバーで構成する会議で審査する。目下のところ、詳細な選定基準を設けていないが、「基本的にはゴーサインを出す」(小清水社長)。失敗することもあるので、3年かけて精査する。

 1年目は、計画に対する大幅な進ちょく遅れがないか、半期の売り上げが前半期の売り上げを下回っていないか、チェックする。2年目は、粗利益額が前期を下回っていないか、そして3年目に損益分岐点を下回っていないか、損益分岐点を上回るメドがたっているかを見る。そこから存続、撤退を決める。

 「今は赤字でも、将来性がある」。健全な赤字の事業と判断すれば、継続させる。例えば、部門内で予算をまかなえないのなら、全社の投資とする。ただし、本社経費の6.5%内とする。分かりやすく言えば、単体の利益内ということ。加えて、「費用がかかるので、各部門長に内容をオープンにする」(小清水社長)。事業部制による連邦経営をし、部門長に大きな責任を持たせているからだ。

 だが、成長に新規事業は欠かせない。売上高100億円を、連結で3年後(16年6月期)、単体で5年後(18年6月期)に達成し、営業利益率5%を確保できる経営体質にする。


一期一会

 「経営者の能力以上にはなれない」。小清水社長がチャレンジできる風土作りに力を入れた大きな理由だ。例えば、売上高10億円、社員100人の規模までなら、経営者が具体的な戦略を描き、社員を実行に移させる。だが、その規模を超えると、社員の顔と名前が一致しなくなり、どんな能力がある人材がいるのかすぐには分からなくなる。

 その一方、社員は社長の考えに従うだけになり、アイデアを出さなくなる。「成長の源泉は人にある」のにだ。社員のアイデアに期待しなければ、経営者の能力以上に企業は成長できないのだろう。だが、システムサポートは年率2ケタ成長を続けている。

 小清水社長は「私も成長したが、会社はそれ以上の成長を遂げている」と話す。トップダウンのビジネスではなく、社員1人1人が考え判断し行動する社風を創り上げてきたからだという。もちろん、起業家でもある社員とは成果を分かち合う。社員持ち株会は約45%と、システムサポートの筆頭株主である。第2位の小清水社長の2倍近くになる。社員のアイデアを取り込まなければ、明日の成長を遂げられないように思う。

 地元にも根付いた企業であることを願い、市民マラソン「金沢百万石ロードレース」のメインスポンサーになったり、金沢伝統芸能を使ったテレビCMを流したりするなど、知名度向上にも努める。

「田中克己の『ニッポンのIT企業』」 連載の過去記事はこちらをチェック!


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ