タブレットで佐賀が変わる? ワークスタイルと管理職の意識を改革する県庁の秘策地方自治体のIT活用探訪(1/3 ページ)

都道府県で全国初の在宅勤務制度を導入した佐賀県は、2014年度から全庁規模でモバイルワークスタイルの導入に踏み切る。その取り組みを県CIOの森本登志男氏に聞いた。

» 2014年03月25日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 約84万人の人口を抱える佐賀県は、吉野ヶ里遺跡に代表される古代日本の中枢であり、近代日本の成立では大隈重信など多くの著名人を輩出、現代では豊かな自然を生かした産業が活発に営まれている。同県では現在、モバイルを活用して県庁職員の働き方を変革する取り組みが進む。

タブレット100台の配布に2倍の希望

 佐賀県は2011年に策定した「佐賀県総合計画2011」のもと、2013年度から「ICT利活用推進計画」を推進している。同計画では(1)安心・安全な県民生活の実現、(2)心豊かで活力ある県民生活の実現、(3)競争力のある地域産業の育成、(4)県民本位の電子自治体の推進、(5)県民のICT活用力の向上――の5つを重点項目に掲げる。県庁職員のワークスタイルの変革は(4)における施策の1つとなっている。

2011年にCIOに就任した森本登志男氏。日本マイクロソフト出身で、マイクロソフト在籍時代から地方活性化の活動をライフワークにしてきた

 ワークスタイル変革を目指す理由について県の最高情報統括監(CIO)を務める森本登志男氏は、「県民に対するサービスの質を高めていくには、職員の働き方を変えていく必要性を感じていた。業務の効率化を通じ、実際にその効果を住民サービスにつなげたい」と語る。

 佐賀県は2008年に、全国の都道府県としては初めて在宅勤務制度を導入した。その目的は、ワークライフバランスの実現や介護・子育ての支援にあったが、実際の利用者は少なかったという。オフィスで働くことが当たり前という雰囲気が強く、職員にも制度の利用を希望しづらいという意識があったようだ。

 「親の介護や子どもの用事などで、どうしても日中に対応しなければならないとなると、以前は休みを取るしかなく、頻度が増えれば退職せざるを得ず、人材を確保できなくなる事態も起きる。モバイルを活用して柔軟な働き方を実現すれば、職員の負担軽減と住民サービスの向上を両立できるはず」(森本氏)

 全庁規模でのワークスタイル変革に向けて、まず2013年8月にモバイルワークの実証事業をスタートさせた。実証事業では100台のiPadを導入し、県庁内の各部署から公募したところ、46部署の55事業から196台分の利用希望があった。「単に配布する形だと現場は受け身になる。職場からアイデアを出してもらう形にしたことで、導入効果を期待できるプランが多数集まり、審査は大変だった」(森本氏)という。

 審査では現状の業務量や内容、ツールの活用方法、書類などの電子化といったiPad利用における目的を提出してもらい、最終的に35部署42事業を対象に100台のiPadを配布した。iPadを配布できなかった部署に対しても審査後にヒアリングを行い、そのアイデアを実証実験に反映させていった。iPadの配布先は、農業や土木・建築などの事業から不法投棄の現場調査といったものまで、現場業務の多い事業が中心となった。

 モバイルワークではiPadを利用する職員のPC環境を仮想デスクトップ化し、携帯電話網を使って県内のどこからでも安全にアクセスできるようにしたほか、電子化した書類やファイルサーバの情報をiPadで閲覧できるようにしている。

モバイルワークにおけるシステムのイメージ

 例えば、生産振興部園芸課では農業施設の現場確認にiPadを利用する。現場で電子化した資料や図面などをiPadの画面上で参照しながら、iPadのカメラで撮影した写真や検査内容などを入力している。従来は、紙の書類フォルダやデジカメなど3.7キロの装備を持ち歩きながら現場確認を行い、事務所に戻ってから報告書を作成していた。一方、実証実験ではiPad本体と保護ケースを合わせても1.3キロの装備で済み、報告書作成も現場で行えるため、現場確認に要する業務時間を30分短縮できたという。

 「こういった成果は民間企業では幾つもあるが、自治体にとっては劇的な変化。情報漏えい対策のためにPCを持ち出せないと、数日の出張だけで1000通近いメールを処理できなくなり、電話対応に追われることもある。モバイルを活用することで、業務効率は飛躍的に向上した」(森本氏)

不法投棄の監視対応における活用。以前は住民からの通報を受けた県庁担当者が現場職員に電話で連絡していたが、モバイル活用では場所などをメールで連絡し、職員はiPadの地図で確認しながら現場で報告する
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