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» 2014年08月21日 08時00分 UPDATE

ビッグデータ利活用と問題解決のいま:健康・医療分野におけるビッグデータイノベーションの動向 (1/2)

健康医療はビッグデータ利活用への期待が高い反面、厳格な法規制の下で情報セキュリティのリスクも高い。日本では医療介護データの有効活用によって医療費削減を図る方針が打ち出されたばかりだが、先行する米国はどのような形で取り組んでいるのだろうか。

[笹原英司,ITmedia]

カルテの電子化からビッグデータ利活用に移行する米国

 厚生労働省の医療保障制度に関する国際関係資料によると、2011年の日本の一人当たりの医療費は3213ドルであり、総医療費の対GDP比率は9.6%である。これに対し、米国は8508ドルで対GDP比率が17.7%となっている。年々増加の一途をたどる医療費をどう抑制するかは、日米に限らず世界共通の課題になっている。

 日本では2014年8月11日、政府の社会保障制度改革推進本部が地域横断的な医療介護情報のICT化によって「見える化」を進め、各地域の状況を比較した結果を踏まえて医療介護支出の効率化・適正化を図ることを目的とした「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」を立ち上げた。医療介護データの有効活用により、医療費の削減を図る方針を打ち出したが、具体的な議論はこれから始まるところだ。

 他方、2008年のリーマンショック後の景気浮揚策として制定された「2009年米国再生再投資法(ARRA)」に基づき、医療機関における電子カルテ導入支援策(「Meaningful Use Stage 1」)を推進してきた米国は、蓄積された電子データの統合・2次利用による付加価値創出の段階(「Meaningful Use Stage 2」)に入りつつある。第2段階への移行時期に合わせて、クラウドコンピューティングやビッグデータのほか、スマートフォン/タブレット/IoT(Internet of Things)に代表されるモバイルや消費者主導のソーシャルメディア技術など、様々なイノベーションの成果が健康医療分野に応用されようとしている。Apple HealthKitやGoogle Glassも、この辺りのタイミングを見計らって登場したソリューションである。

保険医療費の不正防止にビッグデータ分析技術

 医療費削減の観点から、医療制度改革(オバマケア)を進める米国政府を悩ませてきたのが、公的医療保険への不正請求である。米国では政府機関に対する不正請求が発覚したら、不正額の3倍の損害賠償を課すのが原則になっており、不正請求の情報提供者に報奨金を支払う内部告発制度も整備されているのだが、不正は後を絶たず、その金額も膨大に上っている。

 保健福祉省(HHS)は、医療改革を目的とした「医療保険制度改革法(PPACA)」および中小企業の景気浮揚を目的とした「2010年中小企業支援法(SBJA)」に基づく政策の一環として、2010年より高齢者医療保険(メディケア)や低所得者医療保険(メディケイド)を所管する傘下の「メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)」において、保険医療費の不正請求防止を目的としたデータ予測分析モデル構築プロジェクト「不正防止システム(FPS)」を進めている。

 2010年9月のSBJA署名後、FPSのシステム構築についてはNorthrop Grumman、予測分析モデル構築についてはIBMが受託・開発し、2011年6月30日より、システムが本稼働している。

 現在、FPSでは以下の4種類のモデルを組み合わせた計74の予測分析モデルを同時に稼働させながら、1日当たり約450万件の保険医療費請求(レセプト)処理業務について、不正やムダ、誤使用がないか、常時モニタリング作業を行っている。

  • ルールベースモデル:既知の不正のタイプや不正と疑われる行動のパターンをフィルタリングする
  • 異常検知モデル:受容できる行為の閾値を定義して、同じようなグループから収集した行動パターンと時系列で比較することによって、異常な請求申請を特定する
  • 予測モデル:過去の既知のケースに基づいて、高度な予測モデルを構築する
  • ソーシャルネットワーク分析モデル:不正と疑われる項目の中で、すでに関係性が特定されているものを、ソーシャルネットワーク機能を介してリンクさせる

 これらのモデルは元々、通信や金融の分野で培われてきた不正予知の技術を、健康医療の分野に応用したものである。分析予測アプリケーションを支えるインフラのクラウドセキュリティやサイバーセキュリティについても、省庁横断的な標準化・共通基盤化への取り組みが進んでいる。

 なおFPS導入の費用対効果については、CMSが2012年12月の「不正防止システム - 導入初年度(関連PDF)」や、2014年6月の「不正防止システム - 導入2年度(関連PDF)」で公表している。FPS導入によって不正な医療費の支出を抑制できた金額は、導入初年度の報告書で1.2億ドル、導入2年度の報告書で2.1億ドルと推定されている。Wall Street Journal氏の記事「How Agents Hunt for Fraud in Trove of Medicare Data」)によると、メディケアの年間支出の約1割が不正なアカウントによるものだという推計もあり、今後もビッグデータ利活用のメリットの大きい領域となっている。

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