現代の地域社会が抱える問題は複雑かつ多様であり、その解決に市民の力とICTを活用する動きが急速に広まっている。この分野で先行する米国シカゴの取り組みとはどのようなものだろうか。
第1回:ビッグデータ利活用の表舞台に立つプライバシーとセキュリティ
第2回:IoTとビッグデータがもたらす社会変革とクラウドセキュリティ
第3回:ソーシャルメディアで加速するビッグデータ利活用とガバナンス課題
第4回:セキュリティ/リスク管理から見た米国のオープンデータ戦略
第5回:新規事業創出で注目されるクラウドストーミング、利点とリスクは何か
第6回:世界や米国にみるセキュリティ人材の育成術と日本の課題
第7回:健康・医療分野におけるビッグデータイノベーションの動向
第8回:研究開発を牽引するクラウドとビッグデータ、リスク管理をどうするか
第9回:米シカゴにみる、市民参加で地域課題の解決を目指すスマートシティの最前線
第10回:ボストンに学ぶ市民参加型コミュニティの管理と人材の役割
近年、都市が抱える社会課題の解決を目指すスマートシティプロジェクトで、一般市民が主体となる「シビックテック(Civic Tech)」を活用する動きが広がっている。スマートグリッド、モバイル/IoT(モノのインターネット=Internet of Things)、ソーシャルメディア、ビッグデータなど、利用可能なICTが拡大する中で、地域の市民や企業が気軽に参加できる仕組みを安全・安心に保つことは容易でない。海外の都市はどのように取り組んでいるのだろうか。
オープンガバメント/オープンデータからビッグデータへの流れが本格化しつつある米国では、ICT利活用で地域課題の解決を目指すスマートシティプロジェクトに、ステークホルダーである市民が深くコミットするケースが増えている。
例えば、中西部イリノイ州のシカゴでは、オバマ政権下で2009年から2010年まで大統領首席補佐官を務めたラーム・エマニュエル市長のリーダーシップの下、市民参加型のスマートシティによって、様々な社会課題の解決に向けた取り組みが行われてきた。
エネルギー分野では、シカゴ市内にあるGeneral Electric(GE)のスマートメーター事業部門を中心に、2018年までに同市の全家庭および事業所向けにスマートメーターを生産・導入するプロジェクトが行われている(Mayor Emanuel, GE, Silver Spring Networks and ComEd Announce Implementation of Smart Grid to Beginを参照)ほか、エネルギー管理システム(EMS)関連プロジェクトとして、「Retrofit Chicago」も進んでいる。
公共サービス分野では、官民連携型の非営利組織「スマートシカゴ・コラボレティブ」が牽引役を果たしている。2000年代半ばにデジタルデバイドの解消を目的として、シカゴ市の自治体、地域NPO、慈善団体、産業界などによって設立された非営利組織「パートナーシップ・フォー・デジタルシカゴ」を母体としており、リーマンショックを受けて2009年に施行された「米国再生・再投資法(ARRA:American Recovery and Reinvestment Act)」を受けて、健康医療、環境・エネルギーと並び、ブロードバンド分野が景気刺激策の投資対象となったことから、ICTの利活用でシカゴの抱える日常的な社会課題の解決を目指す官民協働組織へと発展していった。
現在、スマートシカゴ・コラボレティブは、市民サービス、健康医療、教育、技術インフラストラクチャ、オープンデータの5つの領域で、以下のようなプロジェクトに関与している。
加えてシカゴでは、市街地のセンサーネットワークを利用したビッグデータプロジェクト「Array of Things」への取り組みが始まっている(「The Array of Things at OpenGov Hack Night」を参照)。今後、スマートシティの課題を解決する要素技術としてビッグデータを組み入れる動きが一気に進む見込みである。
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