富士通が社長および会長人事を発表。16代目社長に就任する田中氏は、歴代の社長では珍しい営業出身のキャリアを持ち、海外ビジネスにも明るい。現社長の山本氏が“成長ドライバー”として期待を寄せる田中氏は「グローバル化の深化」が最大の課題だと話す。
既報の通り、富士通は1月19日、現代表取締役社長の山本正已氏が代表取締役会長に、現執行役員常務の田中達也氏が新社長に就任すると発表した。新年度から新執行体制で業務を行い、2015年6月22日開催予定の株主総会および臨時取締役会で正式に就任する見込みだ。
同日行われた記者会見では、現社長の山本氏と新社長の田中氏が登壇。社長交代の理由や田中氏への期待などが語られた。
富士通が次期社長に田中氏を選んだ背景には、グローバル事業への注力がみてとれる。田中氏は2003年から2009年までの6年間、中国・上海にある富士通有限公司に赴任し、2014年4月からAsiaリージョン長を務めるなど、海外事業の経験が豊富だ。海外ならでは勘所や難しさも体験してきたという。
「中国には自ら手を挙げて行った。テクノロジーの進化に合わせて顧客のニーズが変わる激動の時代だったと思う。アジアのリージョン長をやったことで、海外は国に合わせてでビジネスの方法を変える必要があることも分かった。国ごとに文化や市場、GDPなどが異なるので、実情を知る現地スタッフとの議論が重要になる。決してアジアとひとくくりにして考えてはいけない」(田中氏)
現社長の山本氏も、田中氏の資質について「グローバル市場についての理解があり、トップに必要な行動力や判断力がある」と太鼓判を押す。
山本氏は2010年6月に就任し、5年での交代となった。就任以来、半導体事業の構造改革を推進したほか、2014年4月には、日本、米国、アジア、オセアニア、EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)の5地域によるグローバルマトリクス体制を構築した。
山本氏は、社長交代の理由として「リーマンショック後の最も厳しいときに社長になり、今後成長するための基礎作りを5年間行ってきた。構造改革やグローバル体制の移行などの課題に一定の道筋がつき、発展のためのベースはできたと考えている。“5年”というのは、1つの役を演じるのにちょうどいい期間」と説明した。
今後は会長として、対外活動を中心に動き社長を補佐するという。「社長1人で社内外すべての業務を行えるかというと難しい。会長と社長の役割分担が重要だ。長く会長のポジションがフリーだったので、対外活動を強化していく。会長が外政を行い、社長には業務執行という内政を行う。この体制を“あうんの呼吸”で進めていくのが富士通のスタイル」(山本氏)
田中氏が今後取り組むのは、富士通のさらなるグローバル化だ。同氏は「グローバル化の深化」が最大の課題だと指定する。
「山本社長がグローバルマトリクス体制を構築したが、グローバル化はまだまだ追求する必要がある。売上比率や売上額はまだ足りないと考えている。日本の経験や技術を世界へ広めていくという基本姿勢は変わらない。特にアジアでは農業や交通など、ICTを活用した社会インフラがれい明期を迎えており、中長期的な収益が見込める」(田中氏)
また、営業出身の田中氏は「徹底した顧客主義」という信念を持っている。「製品開発はともすれば独りよがりになりがち。今後は現場や現実を見て、顧客起点で開発することを徹底する。世界にはさまざまなベンダーがあるが、『富士通だからできる』というプラスアルファの価値で差別化を図る。そのために専門力を高めていく」(田中氏)
2014年に創立80周年を迎えた富士通。中期経営計画では、2016年度に過去最高の営業利益として2500億円を目標としている。「いかにしてその目標を超えるかが社長の役割。そうでないと社長に選ばれない」と山本氏は田中氏に“成長ドライバー”としての期待を寄せる。田中氏も目標越えに果敢にチャレンジしていきたいとしつつ「富士通は優秀な人材が多く、自由かっ達な社風が強み。これを生かして90周年、100周年に向けてさらに発展させるべく全力を尽くす」とアピールした。
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