数あるクラウドベンダーの中で、AWSを選定したのはなぜか。ヒト、モノ、カネ、総合的な環境と実績をかんがみ「我々の理想に一番近かったから」だという。
ユーザーが多く、コミュニティもある。最新事情を自社の環境にあわせて提案してくれるコンサルサービス(AWSプロフェッショナルサービス)がある、完全な従量課金制で継続的な技術革新がある、ハードウェア刷新サイクルから解放される、本番システムで採用するSAP ERP 6.0での導入実績がある、監査レポートもきちんと提供してくれる。そして「やはりオンプレより総合的に安い」。行くべき理由を満たし、かつコストも下がる──ここが決め手だった。
ハードウェア更新期間の5年で換算したコスト効果は、むだな開発検証機の停止やRIの利用を徹底すと、約20%の削減が見込めることが分かった。さらに現在稼働するプライベートデータセンターの縮退などまで視野に入れれば、さらなるコスト削減が期待できる。「もちろん、全員が納得するロジックはなかなか出せません。だから、ムリヤリ数字を作ることになりかねない運用や開発費は、変わらないですと説明しました」(旭硝子の浅沼氏)
このようにポジティブ面の評価は比較的簡単だ。それより、ネガティブな面の評価し、説得することが難しい。具体的には「法律的に問題はないか」「セキュリティリスクはどうか」「その他社内規程に抵触しないか」「内部統制との整合性がとれているか」の4つ。
「法律的に問題ないかをどう証明するか……はかなり難しい課題でしたが、人事、製造、会計など、それぞれのデータ区分ごとに関係がありそうな法案を参照し、それぞれを検討することにしました。もっとも、“データセンターが日本国内にある”は前提です。日本国内だけでシステムが作られている、と言うことですね。AWSでも他国リージョンのは使わない。日本の国内法を順守するという意味となります」(旭硝子の浅沼氏)
例えば人事情報であれば個人情報保護法、設計データなら外国為替および外国貿易法(外為法)などが関連する。クラウドに移行して問題がないか、外部のコンサルタントと連携しながら関連法案を改めてひもとく作業を行った。結論として、データをきちんと保護すること、管理することが重要であり、“データの場所は問題ではない”と解釈するに至った。
内部統制は「われわれではできないので、Amazonに全部任せてしまう──としてしまうと、上場企業会計改革および投資家保護法(日本版SOX法)に引っかかる可能性があります。きちんとリポートを出してもらい、自社の監査法人にこういうリポートを出してもらえるがどうかという伺いをたて、OKをもらいました。こういった監査リポートをきちんと出してくれること、それと自社の監査法人と確認してもらうこと。オンプレからクラウドへ移行するポイントとして、とても重要なことです」(旭硝子情報システムセンターの大橋数也氏)
「自社の事情にそってしっかり評価したことで、クラウドが“ダメ”な理由はないことが改めて分かりました」(旭硝子の浅沼氏)
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