出産や育児で長期間、会社を離れていると、社会から取り残された気分になり、自分のスキルが通用するのか不安になる――。そんな産休・育休中の女性社員が、自宅にいながらにして会社と接点を持ち続けられる仕組み作りに取り組んでいるのがベネッセだ。
4月21日、ベネッセコーポレーションの会議室には50人を超える女性社員が集まっていた。大きなテーブルを二重三重に取り囲む社員たちの間では、あちこちで情報交換が始まり、とても賑やかだ。
ここで行われたのは、産休・育休からの復帰者を対象とした研修。参加した女性たちは、この1年半ほどの間に出産し、育児休職を経て4月15日に職場復帰したワーキングマザーなのだ。
現在、ベネッセでは、常時100人を超える産休・育休社員がいるという。会社の制度上、4月か9月に復帰する社員が多く、そのタイミングで復帰する人のための研修を行っている。その内容は、会社の現況や今後の戦略といった社員として知っておくべきことから、会社や社会がワーキングマザーに期待すること、育児経験のある女性役職者や先輩社員からの具体的なアドバイスなど、非常に手厚い。
ベネッセは、男女雇用機会均等法以前の1970年代からすべての女性を総合職として採用しており、育児のための時短勤務制度や企業内保育室の設置なども、法制度が整備される前から取り入れてきた。女性活用のリーディングカンパニーである同社が最近特に力を入れているのは、ワーキングマザーに対する単なる両立支援にとどまらない、より活躍してもらうためのさまざまなキャリア支援だ。
ベネッセがキャリア支援を強化する背景には、53%を超える女性社員比率の高さがある。そのうちの約35%をワーキングマザーが占めており、会社にとって「彼女たちの活躍は不可欠」という状況があるのだ。
そんなベネッセが、産休・育休社員向けの情報共有サイト(以下「育児休業者向けサイト」)として社内SNSの「エアリーダイバーシティ」を導入したのは2010年のことだった。
なぜ、新たなツールが必要になったのか、このツールをどのように活用しているのか――。当時、同社人財部の担当者として導入を決めた池田和さん(ベネッセホールディングス WLB女性活躍推進室リーダー)に聞いた。
「このサイトをオープンした2010年は、ちょうど年間の育児休職者が100人を超えた年でした。2006年頃から中途入社の社員が増加した影響もあり、その頃から育休社員も激増したのです。それに伴って、彼女たちへの情報共有の方法に問題があることが分かってきました」(池田氏)
産休・育休社員に対する情報共有が難しくなるのは、企業内のネットワークにアクセスする手段がなくなるためだ。産休・育休の間は「休業中」となるため、業務用のPCは返却しており、仕事用のメールアドレスに届いたメールも見られなくなってしまう。そうすると、連絡手段が個人のメールアドレスか、電話、郵便といった手段に限られてしまうのだ。
育児休業者向けサイトを導入する前の連絡手段は、郵便が主だった。月に1〜2回、社内報などを送っていたものの、細かな会社の動きはほとんど共有できていなかったと池田氏は振り返る。また、会社の制度や申請手続きに関して、産休・育休中の社員から人事担当者に対して問い合わせがあると、ひとつひとつメールで回答していたという。人事担当者にとっては「よくある質問」なのだが、すべての産休・育休社員にタイミングよく情報を共有する手段がなかったのだ。
社内情報がリアルタイムで共有されないという問題は、社内に多くの“浦島太郎社員“を生みだした。復帰はしたものの、変化した現場にすぐに適応できない社員が増えてしまったのだ。
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