おいしい野菜は“データ”でつくる 経験者ゼロの農業ベンチャーが成功したわけ農業経験者ゼロを逆手に(3/3 ページ)

» 2016年03月25日 14時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]
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社員が次々と業務アプリを開発

 社長の三原氏が最初に作ったのは、クラウド上で入力も承認もできる経費精算のアプリ。入力フィールドやドロップダウンメニューなどをドラッグ&ドロップで配置していくと自社の仕様に合ったアプリが完成し、途中で変更があってもすぐに変えられるところに魅力を感じたという。「ややこしい要件定義をして仕様書をつくって、システムを更新していく――といった作業が必要ないところがいいですね」(三原氏)

 「ExcelでSUM関数を扱えるくらいのITの知識があればアプリを作れる」(同)ことから、NKアグリではkintoneを社員にも開放。今では社員がExcelのワークシートを作るように、自分と他のスタッフが必要な情報を共有するためのアプリを開発しており、その数は60を超えたという。

Photo 現場スタッフが利用している収穫実績アプリ。ここに入力された情報をベースに、アプリ上でさまざまな議論が交わされるようになったという

 「営業報告や月次の生産報告、産地開発の進捗報告アプリなど、さまざまなアプリが稼働しています。生産見込みと受注をリアルタイムですりあわせながら対応を検討できるので、ズレが少なくなりましたね」(同)

 また、スタッフ同士がリアルタイムで生産や受注の状況を把握できるようになったことから、コミュニケーションが活性化するというメリットも生まれたという。「日々の状況が短いスパンで分かるようになると、ちょっと状況が悪くなってきたときにもすぐ、ズレを把握して対応できる。対策を話し合う機会も増えましたね」(同)

野菜工場のデータ管理もリアルタイムで

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 NKアグリは2014年5月から、自社で運営する水耕栽培のレタス工場でもkintoneを活用し始めた。パートのスタッフが紙の帳簿で管理していた水温や肥料の濃度などのデータを、kintoneアプリに入力するように変更し、異常があったときにはアラートが出るようにしている。

 「水温や肥料の濃度が異変があると、即座にアラートが飛んでくるので、生産管理のスタッフがすぐ生産工場側に指示を出して対応できます。この仕組みを取り入れてから、品質を一定に保てるようになりました」(同)

 契約農家に生産を委託しているリコピン人参の生産現場では、2015年から全国5カ所に設置した通信機能付きの各種センサーを通じて温度や湿度、日照時間を自動でkintoneに送る仕組みを取り入れた。スタッフが少ないながらも、10都道府県の契約農家からの安定供給と全国30都道府県40社の量販店への出荷を可能にしているのは、この仕組みによるところが大きいという。

 「私たちは野菜の栽培技術を研究していて、“温度をこうすれば、栄養価の高い人参が育つ”といった育成のパターンデータを持っているんです。そのデータを基に、全国の農家に人参を作ってもらっているわけですが、全国の温度や日照時間のデータを見れば、どの時期にどこで生産すれば、栄養価が最大になるかが分かるんです。この情報をベースに産地をリレーすれば、栄養価が高い人参を途切れなく安定供給できるようになります。天候の影響で出荷時期がずれるとしても、それをデータから事前に把握できるのがいいところですね」(同)

Photo 全国5カ所に設置したセンサー情報をkintoneに集約し、収穫時期の差異や収穫量を予測している

“農業データの可視化”を支援

 ITを使ったデータ農業により、起業から4年で生産量の3割増を実現し、販売ロスもごくわずかに収めているという。手応えを感じている三原氏は、品質のさらなる向上や収穫量の予測にデータを活用していく考え。栄養価やおいしさといった、“市場が求める付加価値がある野菜“の品目も増やしていきたいと意気込む。

 さらに、今後は自社の“ITデータ農法”のシステムを、他の農家にも広く開放していきたいと考えている。「農家の方々にデータ農業の話をすると、“ITを使って自分の経験をデータで裏付けしたい”という声が予想以上に多かったんです。数百万円もするようなシステムを使わなくても、勘や経験を可視化できることを知ってほしいですね」(三原氏)

 農業とは無縁のIT社長がゼロから立ち上げたデータ農法は今、既存の農家を巻き込んで新たなムーブメントを起こそうとしている。ITはきっと、そこでも大きな役割を果たすはずだ。

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