「ウイルス」が本来の意味に立ち戻る日(3/3 ページ)

» 2016年12月27日 08時00分 公開
[Kaspersky Daily]
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DNAとランダムアクセス

 科学者たちはDNAの読み方を理解した後で、ヌクレオチド配列の合成方法を研究しました。人工DNAの形で情報を書き込もうとしたのは、Microsoftの研究者が初めてではありません。数年前、EMBL-EBIの研究者グループが、739KBのコード化に成功しています(英語記事)。

 Microsoftの研究成果は次の2点で画期的でした。まず、データの保存量が飛躍的に増え、200MBの格納に成功しました。ヒトのDNA鎖1本に含まれるデータ量は750MBですから、それほどかけ離れていません。

 しかし、さらに画期的だったのは、1回のシークエンス処理で、DNAから約100塩基分(生物学的なビット)の情報を読む方法を示したことです。

 研究者グループは、プライマーとターミネーターのペアを使って、鎖の始点から、指定された距離だけ離れたところにあるヌクレオチドのセットを読み取ることができました。この技術は1ビットに対するランダムアクセスではなく、ブロックメモリアクセスに近いと言えます。

 研究者たちは、このようなDNAメモリは特に高密度の長期保存メモリの分野で生かせるだろうと考えていますが、確かにその通りです。有名メーカーのUSBメモリのデータ密度は、1cm3あたり約1016ビットですが、DNAメモリの推定密度はこれを3桁上回り、約1019ビットです(英語記事)。

 その上、DNAは非常に安定した分子です。冗長符号化機能とエラー訂正機能が組み込まれているので、書き込み後何年どころか、何世紀たっても、DNA上のデータは読み取り可能でしょう。

さて、ウイルスに戻ります

 ところで、ここまで長々と説明してきた事実には、情報セキュリティの観点ではどんな意味があるのでしょうか? 前述のような方法でDNAに保存された情報の整合性は、数十億年にわたりデータ破壊を専門としてきた有機体によって脅かされる可能性がある――そう、生物学的に言う「ウイルス」の脅威に晒されるかもしれないのです。

 コードされた合成DNAを狙う遺伝子組み換えウイルスが大発生、などという事態はまずなさそうです。当面は、データがDNAに書き込まれる前のデジタル形式であるうちにデータを書き換えて悪意あるコードを侵入させる方が簡単です。

 しかし、既存のウイルスによる破壊から合成DNA内のデータをいかにして保護するか、その方法については議論の余地が大いにあります。例えばポリメラーゼは、一般的なインフルエンザウイルスのDNAなど、溶液内のDNAを何でも喜んで複製しますから。重要なファイルを書き込んでいるときに、誰かが咳やくしゃみをしたらどうなるでしょうか……。

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