“超スマート社会”を支える人、組織、ビジネスを創り出す――日立・齊藤副社長2017年 新春インタビュー特集

組織を分野別のビジネスユニットに再編し、IoTプラットフォーム「Lumada」などで顧客のデジタル化をサポートする体制構築を急ぐ日立製作所。その取り組みの現状と課題とは。執行役副社長の齊藤裕氏に聞いた。

» 2017年01月30日 10時30分 公開
[園部修ITmedia]

新春インタビュー特集:「2017年、ITは何を生み出せるか?」

 「デジタル・ディスラプション」や「デジタル・トランスフォーメーション」という言葉に代表されるように、近年、デジタル化によって、既存のビジネスや社会の在り方が大きく変わろうとしています。

 ともすれば、危機感を煽るような捉え方になりがちですが、変化の後には必ず“創造”がある。その結果は、私たちにとって“よりよい”ものであるべきでしょう。2017年、ITは一体何を生み出せるのか――。本特集では、有力ベンダー各社のキーマンを中心に、その思いと取り組みを聞いていきます。


―― 2016年に社会が大きく変わったと感じた場面はありましたか?

齊藤裕副社長 ITの観点で言うと、「すべてがデジタル化していく」という兆候がさらに大きく進展したと感じています。

 2016年は、AIが大きく注目され、それを活用しながら自動化や機械化をしていく動きが見えてきました。AIを活用したロボットで自動的に学習できるようにすれば、人間がやっていたことの一部を任せられるでしょう。また、人間が苦労してきたところをAIでサポートする、インテリジェントアシスタントやデジタルアシスタントなども、普及しつつあると感じます。世の中の仕掛けや仕組みが、AIやIoTを活用しながら加速度的に変化する時代に入ったと言えるでしょう。

日立製作所 執行役副社長の齊藤裕氏 日立製作所 執行役副社長の齊藤裕氏

 身の回りが「デジタルエコノミー」とか「デジタルソサエティー」だと言われても、違和感がなくなってきていませんか。現場でデジタル技術を活用し、それがいよいよ血となり肉となってきたと感じています。

 さまざまなセンサーなどを通して取得され、デジタルデータに変換された現実世界の様子や出来事を元に、サイバー世界に蓄積されたビッグデータを分析や予測に生かすサイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System)という概念がありますが、デジタル化はそれよりもっと激しい。言ってみれば「自分の生活の一部にデジタル空間がある」というイメージでしょうか。現実世界の中に、デジタルというものがもう不可分なほどに組み込まれているのです。

―― この変化に対して、日立はどう貢献していこうとお考えですか?

齊藤副社長 今のモノ作りは、メーカーを中心とした世界で成り立っています。これを、社会とか顧客を中心とした世界の発想にしていかないといけない。しかし、そのために必要な人財が圧倒的に足りません。

 お客様から見て、いいサービスやいい仕掛け、いい仕組みを作るには、ITなどのデジタル技術が必須です。それを活用するためには、作る人が業務の現場を知っている必要があります。ITに詳しい部門の人が現場を勉強しても、現場をよく分かっている人間がITを知っても、どちらでもいいのですが、今はそういう人財が少ないのです。

 日立の社内でも、社会インフラを担当している人たちや、モノ作りをやってきた人たちが、すぐにデジタル化の波に乗れるかというと、なかなか難しい。ですから、デジタルに詳しい人たちを社内外から連れてきて、プロジェクトチームなどを作って、現場で一緒に勉強させる、あるいは他社と協創という形で勉強する、ということも進めていこうと思っています。もちろん、言葉で言うほど簡単なことではありません。

 ITの技術というのは、社会インフラ系の技術に比べて“かなり変化が早い”のです。モーターやタービンなどはそう変わりませんが、ITは数年もすればガラっと変わります。このスピードについていくのが大変なのです。インフラの部門でもITを使いこなそうと思ったら、しっかり勉強して、実際にシステム設計なども経験してみないと難しいでしょう。

 一方、ITを扱う部門の出発点は、「計算機のシステム」です。ですが昨今は、センサーからネットワークを介してデータを取得し、それを活用して、現場をどうするかというシステムが必要になっています。単純に計算機の中に入ってきたデータを扱うシステムとは異なり、システム開発の際に、現場のセンサーや機械の制御などの目線も持たなくてはなりません。ここは、弊社のITの部隊でも得意とは言いづらい。

 日立はお客様とともにデジタルカンパニーを作っていきたいと考えています。我々が持つノウハウや技術を活用していただき、企業をデジタル化するお手伝いができるようになりたい。そのために2016年4月に組織変更を行い、分野別の12のフロントビジネスユニット、プラットフォーム、プロダクトと3階層からなるマーケットドリブン型の事業体制にしました。ITも現場も分かる人財というのは、まだどこにもいないと思っています。だから、これからそういう人財を作っていくしかありません。

 今、日立ではIoTプラットフォームの「Lumada」をお客様と活用していくChief Lumada Officer、CLOを作ろうとしています。CLOが対応するのはお客様企業でその会社をデジタル化するための中心人物、CDO(Chief Digital Officer)です。特に日本のお客様は、モノ作りは強いけれど、そこに固執して、デジタルを活用した次のビジネスをどうしていくのか、という取り組みが遅れているという課題があります。ですから、誰かがデジタルという世界に向かうサポートをする必要がある。それができるのが我々だと考えています。

 お客様に「現場を知っている人間がうちにいます、ITが分かっている人間もうちにいます。ですから、お客様の会社はデジタルカンパニーになれますよ」というメッセージを出して、一緒に作っていく体制を作りたい。お客様の利益が増えて発展すれば、当然我々にもその利益や成長が返ってきます。それが、本来の“協創”というモデルではないでしょうか。

―― 2017年、ITは何を生み出すことができるでしょうか。

日立製作所 執行役副社長の齊藤裕氏

齊藤副社長 現在、資本主義経済の行き詰まりが話題となっています。その中で、資源の問題や地球全体の課題にも取り組んでいかなくてはなりません。次のデジタル社会では、貧富の差によって生まれる格差を埋めたり、無駄使いされている資源を有効活用したりする方向にもITが活用されるようになるでしょう。

 今世界では、ポピュリズムや自国中心主義などが話題ですが、ITの世界はもうすでに「グローバル」なのです。世界中で、インターネットの情報から学んで、革命的な動きが出てきている。だからデジタルの時代は、今ある問題をどんどんブレイクスルーしていくような動きになっていくのではないでしょうか。実際、世の中の変化のペースは加速していますし、その規模も指数関数的に増えています。これは皆の知恵がITを通じて集まっているからだと考えています。

 その流れの中で、日立は何をしていくか。2016年は、先にもお話ししたとおり、Proof of Concept(PoC/概念実証)をやりながら、いろいろなところで何ができるのかを、現場に行って確認しようと動いてきました。2017年は、現場で起きている課題、分かっている課題をどう解決するか、ハードウェア、ソフトウェアを含め、次のデジタル時代へ向けた方向性をきちんと示す年になるでしょう。2018年以降の組織や人財の方針も固めていくことになると思います。

 これは「Society 5.0」(編注:狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな社会を生み出す変革を、科学技術のイノベーションが先導していく、という意味で付けられた名称)が目指す日本の社会も同じだと思います。私は今、経団連のSociety 5.0実現部会に参加していて、そこでは世界に先駆けた“超スマート社会”を実現するための議論をしています。その中で、プラットフォームを考える、アーキテクチャをどうする、という話に加えて、どういう人財層を作っていくか、という点も議論されています。

早く日本の社会をデジタル立国にして、少子高齢化社会になってもモノ作りに強くて、生活は便利快適、ここに住みたい、という日本にする。世界の人々から、「日本に住みたい」と言われるような世界を目指したいですね。

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