長谷川: 今回の本題なんですけど、AWSに転職されるそうで。
進藤: はい。
長谷川: きっかけは? 5年やってきて飽きたなという感じ?
進藤: いや、コンビニは飽きることはないですね。今まで競争相手じゃなかったところが競争相手になってきたり、やることドンドン出てきますからね。
ただ、僕はローソンの業務に特化してきたというよりは、AWSをローソンでちゃんと使えるようにしようとやってきました。そうしたら、ユーザー企業の担当者の方からAWSの使い方について質問されることも増えていったんですけど、まだまだ初歩的なことでつまずかれているケースが多くて。「そこですか……」という実感がありまして。
長谷川: うんうん。
進藤: で、「いまだにそういうつまずきにアプローチできてないAWS、イケてないじゃん。だったら自分でやったらどうなんだろう」と思ったんです。質問にもわれわれはこうやっています、と資料もお見せしながら答えてきたので、同じようなことをAWSでできれば、助かるユーザーの方も多いのではと。
長谷川: では、どちらかというと自分から門戸をたたいた?
進藤: 僕にもそういう気持ちがあったし、AWSにもそういった人材が欲しいという思いがあって、ちょうど両者の想いが同じタイミングで重なった感じだったように思います。
長谷川: いいなー。僕なんて、全然声かからないですもん。「俺こそ、AWSやないんか!」って思うんやけど。
進藤: ですよね(笑)
長谷川: で、聞いたらね、AWSにはこういう人間じゃないとダメという鉄則があるんだって。「人としてこうであれ」みたいな。で、それ守ると、僕の良さがなくなるんだって。
進藤: あはは、確かに(笑)
長谷川: もう、何かあると「今こそ俺の出番だ!」って腕まくりしてるんだけど、全く声かからない(笑)
進藤: それにしても、小売に限らず、AWSもだいぶ使われるようになって、早いところはもう運用まで一通り経験しちゃってるじゃないですか。そういう先進的な企業と、これからAWSに取り組もうとする企業へのアプローチって、AWSもそろそろ変えていくべきだと思うんですよ。でも、あまり変わってない。そのせいで“届いてない”と感じることが多いんです。
例えば、今もAWSでは「落ちることを前提としたシステムにしてください」と言われるんですよね。これはどうなのか、と。これから使おうという人に「落ちる前提」と説明して誰が使うの、とね。言い方1つで印象はだいぶ変わるので、例えば「業務を継続する前提の仕組み」みたいなメッセージに変えていくべきなのに、そこまで至ってなくて。だから“つまみ食い”で終わっちゃうユーザーがいるかもしれないって、すごくもったいない気がするんです。
「クラウドだから安い」だけじゃもう通用しないし、もっとユーザー側の立場になって、そのシステムがどれほど重要なものなのか、そこをしっかり理解して、安心して使えるようなメッセージを出していかないとダメだろうと思うんです。それがクラウドの永遠のテーマなんだろうなあ。
長谷川: なるほど。もうなんていうか、心が完全に“AWSの人”になってますね(笑)
進藤: ずっとこんな観点で仕事してたんですよ(笑)
長谷川: そういえばこんな話があってね。ユーザー企業が、データセンター、サーバ、アプリの全てを提供しているメインSIerの会社からAWSに持ってくのって、大変なんですよ。私もアドバイザリーで参加したことがあるんだけど、ベンダーの彼らの粘り強さは半端ないね。(笑)
ユーザー側から「AWSに移行したい」と言ったとすると、そのベンダーは「AWSは本当に素晴らしい」とかそれっぽいこと言うんですけど、最後の最後には、「AWSよりも弊社の方が安くなる」というレポートになっている。
で、「ちょっとレポートを見てくれ」と僕も呼ばれて、価格比較表を見たんだけど、ベンダーの提案の方には、なぜかデータセンターの料金が入ってないんですよ。僕びっくりしてね、「そりゃあ、安いでしょ。これ条件をそろえるという基本的なところからですよね」と言ったら、そのベンダーが「データセンターは切り売りしてませんので、比較対象外となります」と堂々と言う。
あと、「AWSに関しては、クリティカルなシステムでも稼働するかどうか検証してます」とか謎なことを言うから、AWSをおもちゃみたいなものと思っているんだなと。自分たちのデータセンターの方が優秀だと思っているのは、心底あきれました。
進藤: あははは(笑)
そういえば僕、以前とあるプライベートクラウドのユーザー会に呼ばれたことがあって、とあるユーザー企業のCIOクラスの方にこう言われたんですよ。「私たちの感覚では、パブリッククラウドは“公衆便所”なんですよ。プライベートクラウドの信頼性とか、そういうのを買っているのであって、そっちをメインで利用するつもりはないんです」と。それ聞いて「あ、すげえな」って。
日本の名だたる企業にもまだそういう感覚があるんですよ。多分、そういう人たちは自らシステムをお守りしたことがなく、ベンダーにオンプレで作ってもらってサポートもある環境がありがたいんですよね。1社で全部見てもらえるから楽というか。
だけど、IaaS部分をAWSにしたところで、手間は別に増えるわけじゃない。でも、そういう意識のギャップはまだ残っていて、戦いになっていくんだろうなって思いますよ。だって「公衆便所」ですからね。「まだそういう認識かーっ!」ってむしろもうなんだか面白くなっちゃいましたよ。
長谷川: あははは(笑)
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