「ユーザーが抱えている疑問が、マニュアル内のどの部分に書いてあるのか分からなかったり、マニュアルの説明自体がやや難しかったりと、『結局、電話をした方が早い』という状況は変わっていなかったのです。情シスの担当業務はサービスデスクだけではありません。インフラの管理やトラブルの対応もあるため、作業に集中しなければならないときには、電話を受けるのが難しいこともありました」(浅野井さん)
サービスデスクにとっては「またか」と思うような質問でも、従業員にとっては、すぐに解決しないとマズイ状況であることは間違いない。マンパワーに頼らない解決策が必要だった。
そんな彼らの状況が変わったのは2017年11月。日頃から取り組んでいる新技術の検証をきっかけにチャットbotの導入を検討し始めたのだ。
「自社の業務にAIやRPAなどの新技術を取り入れてデジタル化を進めようという検証に取り組んでいたので、うちの課では、問い合わせ対応にチャットbotを導入しようと考えました」(浅野井さん)
情報システム系の他案件で付き合いがあった、NDIソリューションズからの提案と検証協力を受けて「CB1」の導入を決定。先述のFAQマニュアルを学習データとして開発を始めた。そして2018年3月に東京・三鷹にある支社において、100人に向けて試験導入を行ったという。導入の際には説明会を開き、デモンストレーションを通じて質問のコツや利便性を伝えたそうだ。
チャットbotの名前は「ラッキーくん」。部内で協議したところ、疑問が解決して“幸せになる”という願いを込めてこの名前に決まったという。親しみやすくするために柴犬のキャラクターを採用。「学習を進めるうちに子犬から成犬に成長する」という設定も考えた。
説明会での反応は“かわいい”と上々。FAQマニュアルの他、社内ポータルなど、ユーザーがよくアクセスするページにもリンクを設置し、満を持してテストを開始したものの、そううまくはいかなかった。最初の一週間ほどは利用数が伸びたが、その後、利用者が一気に激減してしまったのだ。
「最初は興味本位で使ってくれたのだと思いますが、回答の幅が狭く、精度も低かったため、『使い物にならない』と判断されてしまったんです」(浅野井さん)
その原因は質問を解読する精度にあった。まず言葉の“揺らぎ”への対応ができていなかった。例えば、ユーザーはiPhoneを「アイフォン」「ケータイ」「スマホ」などとさまざまな言葉で表現する。自分たちが考えた通りにユーザーが質問するとは限らない。揺らぎの問題は、開発サイドからすれば「盲点だった」という。
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