連載
» 2004年02月24日 12時00分 公開

情報マネージャのためのナレッジマネジメント実践講座(1):情報システム部門は“情報”に帰れ──新ミッションとしてのナレッジマネジメント

ITアウトソーシングの進展などにより、「情報システム部門不要論」などもささやかれる今日、情報システム部門が真に取り組むべきは「ナレッジマネジメント」である。今日的ナレッジマネジメントとはどう理解すればいいものなのだろうか

[加治 達也,@IT]

 情報システム部門やその担当者の方々は現在、今後のビジネス環境が大きく変わるかもしれない局面に差し掛かっているのにお気付きだろうか。

 これまでも長いスパンで見た場合、情報システム部門の役割や作業範囲は時代とともに大きく変化してきた。今日はおいてはITガバナンスの必要性や重要性、そして可能性が叫ばれるようになってきたが、逆に情報システム部門自体はその役割、ともすれば責任と権限さえもが不明瞭になってしまっている企業が少なくないのではないだろうか。

 しかし、これからの情報システム部門、情報システム担当、そしてそれらを統括する立場にあるマネージャにとって、最も重大で真剣に取り組まなければならない課題が明確になった。それは「ナレッジマネジメント」である。

 「なぜいまごろ、ナレッジマネジメントなのか?」と思われるのも無理はない。その根本的な疑問から実践におけるポイントなどを本連載にて解説していきたい。

アウトソーシングが情報システム部門の役割を変える

アウトソーシングサービスから得られる恩恵

 今日、情報システム部門の役割は大きく変質しつつある。その背景にあるのは、本当に価値ある内容を提供し始めてきたサービスプロバイダ(xSP)の存在だ。

 企業内の各部門を見渡すと、至る所で情報システム部門が管理しているPCやソフトウェア、サーバサービスなどが利用されている。これらの運用管理だけでも情報システム部門にとっては相当な負担である。ところが、今日の技術進歩のスピードは管理している対象物をあっという間に陳腐化させ、企業会計の面から考えると、これらがすぐに資産として計上されるに値しないものになってしまう。最近はあまり聞かれなくなってきたが、コンピュータの世界では「先行投資不利益の法則」があるといわれるくらいだ。すなわち、新しいものが登場してその使いにくさに奮闘していても、1年もすれば立派に使える次期バージョンや類似の商品・サービスが各社から発売される──そんな状況を繰り返してきた。

 つまり、現時点で情報システム部門が管理監督している“システム”も同様に、近い将来には他社との差別性や競争優位性を失い、ビジネス環境では当たり前のもの(誰でも安価にサービスを享受できるもの)となる可能性があるということだ。それ故に、現時点でコストを掛けて自社で管理しているIT資産が、将来xSP各社が提供する充実したサービスに取って代わられるのは想像に難くない。

拡大傾向にあるxSPが提供するサービス

 xSP各社が提供するサービスは充実してきており、従来の基幹系システムのアウトソーシングだけでなく、PCの購入・廃棄管理、インベントリ(ソフトウェアやサーバのライセンスや各種IT資産)管理、ヘルプデスクなど、かなりの手間、人手が掛かる部分に対するサービスも増えてきている。つまり、ユーザーが主体となって利用するシステムの提供から、ビジネスには欠かせない運用管理の部分までアウトソーシングが可能となっているのだ。そのため、現状でPCやサーバの管理程度しか行っていないのであれば、「当社には情報システム部門はもう必要ない」といわれても反論できない状況になっているといえる。

情報システム部門は再度“情報”に注視せよ

情報化戦略の第一歩としての「脱・技術偏重型セクション」

 では、情報システム部門が活躍するためには、何に対して課題解決を行うべきなのか。答えは、“情報”である。「当たり前じゃないか」と思われただろうか。しかし、これまでの情報システム部門は、ITのT(Technology)ばかりに注意を傾け過ぎの技術偏重型セクションが大半だったともいえる。

 むろん、高度な技術をもって効率化を図り、業務を支援するシステムは、確かに評価されるべきものである。しかし、システムを用意すれば、その中に格納されている“情報”はエンドユーザーである社員が勝手に入力・利用するものだ、と考えていたケースが多くあったのではないだろうか。もしそうであるならば、いまこそ、その“情報”を見つめ直すときなのだ。

“情報の質”を見極めるスキルや知識が求められている

 いまに始まったことではないが、“情報”は企業や人にとっても、差別化や競争優位の原点である。つまり、その企業や人が持つ“情報の質”こそが優位性を決めるのである。さらに言及すると、「情報そのものの価値をどう考えるのか?」という課題に対して、情報システム部門は本気で向き合わなければならないのだ。

 本来的には、単なる効率化のツールを企画・設計・開発するのではなく、企業戦略との関係の中で「情報の価値」を考え、意味ある情報流を社内外に作り出すことこそが求められる。

 単なる効率化のツールを構築するのであれば、市場を広く見渡せば、独自開発しなくても、代替利用できる製品やサービスが見つかるものだ。つまり、企業の情報化競争は次のステージにたどり着いているのである。

取り扱う“情報”の性質を見極める

 経営を支える情報は、大きく4つに分類される(図1)。企業戦略上、価値のある情報は、“インテリジェンス”と呼ばれ、ほかの“情報”と区別されている。

図1 情報の分類

 インテリジェンスは意思決定に役立つものでなければならない。そして、そのインテリジェンスを活用し、意思決定された成果物が“ナレッジ”である。つまり、ある目的を持って意思決定された成果物であるナレッジを競争優位の武器として、経営していくことがナレッジマネジメントなのである。

 そしてビジネスを展開するうえで欠かせなくなってきている情報システムは、ナレッジマネジメントを実践していくうえでも欠かせないものとなる。情報システム部門の必要性や将来の可能性は、いままさにナレッジマネジメントを推進することによって担保されるものになりつつある、という側面もあるのではないだろうか。

今日的なKMは、自社の企業価値を考えるところから

多機能重視型のナレッジマネジメント・システムからの脱却

 ナレッジマネジメントの誕生の背景など、歴史的内容についてはあちこちで取り上げられているので、ここでは割愛しよう。しかし、これまで実践されてきた“ナレッジマネジメント”について、その傾向を見てみると実にIT偏重型が多いことは指摘しておきたい。

 それらは「ITによって知識をどう管理するか」といった内容を中心課題ととらえて短絡的に知識管理と解釈している場合が多く、その実態といえばEIP(企業情報ポータル)グループウェア、ドキュメント管理システムなどの導入という形態を取ることがほとんどだった。

 こうしたシステムが実現してくれるものといえば、「Webページと電子メールが1つの画面で使える」「関係者の稼働状況が分かる」「マニュアル、提案書、事例がすぐに取り出せる」「コラボレーションができる」というようなもので、前述の“情報”と“ナレッジ”が混在している状況だ。さらに、ケースによっては情報の洪水や混とん状態などの新たな問題を引き起こしている。

情報システム部門の満足と、ユーザーの評価は必ずしも一致しない

 前述の多機能重視型のナレッジマネジメント・システムは、もちろん情報システムとしての要件は満たしているが、ナレッジの蓄積や活用については、導入企業(ユーザー部門)任せになっているケースも散見される。そして、利用者の評価は「機能は多いが、コンテンツが分かりづらい」「使いづらい」「即効性に乏しい」という不満を持っていることも少なくない。

 つまり、EIPやグループウェアを導入しただけでは、情報を広くカバーできる特徴が裏目となり、情報やナレッジの範囲が広くなり過ぎて、内容が薄いものになってしまう傾向が否めないのである。全体最適化ばかりに注目すると、内容が薄いものになることは企業内組織の複雑性を考えれば一目瞭然だ。

視野を広く持つことにより、課題の本質が見えてくる

 ナレッジマネジメントそのものの解釈も大きく変わってきている。現在ではナレッジマネジメントを単なるシステム課題として考えるのではなく、「企業として何を価値とし、どうやって価値を創造し、成長し続ける経営をするか」という、ダイナミックかつ、企業経営の本質的な部分に触れた議論が主流として展開されている。つまり、「ナレッジマネジメント=価値創造の経営」という理解が広く浸透し、実践においてもさまざまな手法が試行錯誤され、有効性が認められてきているのだ。

 実践段階においては、必ずしもナレッジマネジメントと呼ばれているとは限らず、「組織の再編成」や「業務プロセスの再設計」、「能力開発や人的資源のマネジメント」、あるいは「システム投資」といわれたりする。その辺りが、今日のナレッジマネジメントが、浮ついたうわべの議論だけではなく、実態を伴った実行フェイズに移行しつつあり、ナレッジマネジメントが再注目されているゆえんともいえるのではないだろうか。

ナレッジマネジメントの実践を考える

ナレッジマネジメントに取り組む際の留意点

 では、情報システム部門はナレッジマネジメントに関して何を考察し、取締役会などに何を提案していくべきなのか──。

 筆者がナレッジマネジメントを考える際に最も心掛けていることがある。それは、「“ナレッジ”に執着し過ぎないこと」である。確かに、ナレッジを中心に考えることは重要であるが、最初から「ナレッジとは何か」といった根源にこだわり過ぎると失敗に陥りやすい。なぜなら、われわれは、企業として、組織として、人として、おのおのの立場・切り口でビジネスを展開しているのであり、その内容は業種や業態、市場環境によって多種多様だからである。

企画や設計よりも、十分な環境調査が成功を左右する

 ナレッジマネジメントを実践するうえで最初にしなければならないことは、社内外の環境調査を行い、外的要因と内的要因に整理し、因果関係を分析して、抽出された課題の解決の方向性を導き出すことだ。それから経営方針に基づいて解決策を決定する。

 つまり、内容によっては解決策自体が、ナレッジマネジメントを必要としないように見えるかもしれない。しかし、外的/内的要因を整理、分析することは、価値ある情報を収集し、最適な状態で意思決定することであり、ナレッジマネジメントの成否を大きく左右する。

マーケティングマインドの必要性

 また、情報システム部門として、社内に価値ある情報が流れる情報流を作り、シームレスな情報伝達やコミュニケーション環境を構築することを重点に考えるのであれば、マネジメントやマーケティング、営業、研究開発、製造など、課題解決が求められる領域は多岐にわたることになる。特に、実際には大多数の情報システム担当者が苦手なのではないかと思われる、“マーケティング領域”を把握することは、作業対象から外すことは決してできない。

 情報システム部門は、顧客接点から遠い位置にあることはよく見られるケースだが、顧客が何を望み、現場が何を望んでいるかということを真剣に考えなければ、役に立たないシステムだと評価される状況に陥る。つまり、情報システム担当にもマーケティングマインドが必要なのである。どの部門であっても、顧客のことをまったく考えなくて済むというわけにはいかない。技術者としての技術的側面だけに専念したい気持ちに流されずに、顧客視点、企業経営の視点を持ち、自社が置かれている環境分析を行うことが重要となる。企業の競争優位に貢献するための情報化戦略の中核として、ナレッジマネジメントにどう取り組んでいくべきか、いま一度見つめ直していただきたい。

 今回は、情報システム部門として、ナレッジマネジメントをどう理解すべきかという視点で述べた。次回は、「KMプロジェクトの推進手順」について具体的に展開していきたい。

Profile

加治 達也(かじ たつや)

株式会社電通ワンダーマン

SIerなどを経て株式会社電通ワンダーマンに。同社のナレッジマネジメント部門専任のSEとして、組織の立ち上げ時より従事。現在はCRM、ナレッジマネジメントを中心に、コンサルティングおよびシステム開発・構築などを担当している。


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