大企業の敵は縦割り部署、中堅の敵は無知なベンダ特集:ERPトレンドウォッチ(4)(2/2 ページ)

» 2005年01月15日 12時00分 公開
[大津心,@IT]
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テンプレートに大きな品質差が存在している

 ERPには出荷時より多くの機能が盛り込まれているが、業種や業態によってそれぞれ必要とする機能が異なる。従って、導入時には機能の取捨選択が必要だ。そこで、ERPコンサルタント企業は、業種や業態ごとに必要な機能を標準化し、テンプレート(ひな型)として用意している。このテンプレートを次回以降、同業種の企業がERPを導入する際に適用することで、短期間、低コストの導入を実現しているのだ。

 中堅・中小企業では、このようなテンプレートを用いた導入が多く行われている。これは、前述のように「成功した事例のテンプレートを利用することにより、コンサルティング費用を軽減する」のが目的だ。ERPパッケージ自体は大企業と同じものを利用するので、ライセンス料は大企業とさほど変わらない。

 テンプレート導入のメリットは、テンプレートで一気に導入するため“ビックバン導入”が比較的容易に実現することだという。逆にいうと、テンプレート導入の際には、ビックバン導入でなければあまり効果が見込めない。一方、デメリットは、テンプレート自体はパートナー各社が作っているのだが、「この品質が一定でない」ということだ。

 例えば、パートナーAは成功した事例をテンプレート化し、それをコピーしてほかの会社に導入したとする。一方でパートナーBは自分でテンプレートを作成してどこかの企業にパイロット導入し、フィードバックを反映したうえでさらに改良を加えながらほかの企業に導入している。パートナー間にこのような違いがあった場合、同じテンプレートでも質が異なるのは当たり前だろう。

 明らかに、パートナーBが扱っているテンプレートの方が、導入企業ごとにカスタムメイドしているのに近い品質であるため、当然高品質だと予測される。逆に、パートナーAのテンプレートは成功事例とはいえ、特定企業のテンプレートをそのまま別の会社に持っていっただけだから、“元の会社のクセ”があるのは当然だ。このように、他社のクセが出ているテンプレートが合うはずがないと同氏は説明する。この結果、A社のクライアント企業は「テンプレートが合わないのでERPを使うのをやめる!」と言い出す可能性が高いのがよくあるパターンだという。

ERP搭載機能を熟知していないパートナーベンダ

 また一番問題なのは、パートナー企業が「テンプレートしか知らない」場合だ。ERPソフトは巨大であり、有能な機能も多く搭載している。さらに現在では、ERP機能以外のSCMやCRM機能も提供している。ところが、テンプレート以外のERP機能を知らないパートナーの場合、ユーザーから「このテンプレートにない、××という機能が欲しい」という要望を受けても「できません」や「アドオンを別途開発すれば可能です」などといってしまうケースがあるという。しかしこの機能は、ERPパッケージを探せばテンプレートには入っていないものの、標準でERPパッケージが持っている機能であるケースもあった。つまり、パートナーベンダが標準搭載の機能を熟知していないために、エンドユーザーに誤解を与えてしまうケースが多発しているのだ。 この問題を解決するために、パートナー企業にはERPパッケージを浅く広く知っているビジネスコンサルティングが「ERPを導入する目的・目標」を詰める作業が必要であり、ビジネス面から導入するテンプレートを調整できるコンサルティングが必須だと井上氏は力説する。

まずはトップが業務プロセスを自らデザインすることが必要

 これらを受けて井上氏は「情報システム部門がERP導入を担当するのは難しい」と結論付ける。情報システム部門の役割は「サービスをどう組み立てて、自社の業務に取り入れていくか」であり、社内全体を見渡し、横串的に導入するにはもっと経営層に近い直属の部門が担当する必要があると持論を展開した。

 そこで必要なのは、事前に業務プロセスを自らデザインし、ビジネス・アーキテクチャ(エンタープライズ・アーキテクチャ)に沿ってシステム設計することだという。この、あらかじめ設計した業務プロセスやシステム設計図にのっとって業務を改革し、必要なサービスを組み立てて“必要な部門にだけ、必要なシステム”を導入することが、全体最適の観点に基づいたERPパッケージの真の目的が達成可能だと井上氏は結論付けた。

 現実的には、経営層直下にERP導入プロジェクトチームなどを結成し、業務プロセスを構築。このプロセスに必要なシステムを分析し、必要なシステムや業務改革をリストアップする。この段階で、ERP導入プロジェクトチームにシステム開発チームや業務改革推進チームなどをそれぞれ結成し、それぞれのプロジェクトを推進する。このようなピラミッド階層を構築し、あくまでも個別のチームには「システム部門は必要なシステムを作成する」や「業務改革推進チームは、決められた目標に向かって改革を進める」といった『ERP導入プロジェクトチームが定めたプロジェクトを推進する役割』に徹することが、ERPを上手く導入するコツだと井上氏は語った。

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