コンサルタントの中核スキルに必要な知識は?PMとコンサルタントは育ちが違う(4)(2/2 ページ)

» 2007年10月11日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]
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問題点全体を鳥観するために必要なテンプレート

 問題点全体を鳥観するために必要なテンプレートは、多くの企業が現在、業務ごと、および会社全体で改革を必要としている事項、改革を実現する方法を整理したものである。

 例えば、会計業務では次のような改革のポイントが考えられる。

財務会計: ・月次連結決算の早期化
・内部監査強化のためのトレーサビリティの保証
管理会計: ・連結ベースの管理情報の迅速な提供
・財務の視点だけに偏らない業績管理指標の見直し
・分析手法の提供
資金管理: ・グループ資金管理の集中化

 これらの改革のポイントに対し、改革を必要とする背景(問題点・原因)と改革を実現する方法(解決策)を整理したものが、会計業務に対する問題点を鳥観するために必要なテンプレートだ。

 コンサルタントはこのテンプレートを使って、会計業務のヒヤリングをする際に、「月次連結決算は会社単位の月次決算の締め後、何日かかっていますか? 経営者からもっと早くできないかという要求はありませんか?」などという質問を事前に用意することができ、ヒヤリングを効率的に行うことができる。

 それだけではなく、数百項目挙げられた問題点を、これらの改革のポイントの背景である問題点に集約できないかと検討することで、問題点整理を効率的に行うことができ、コンセプチュアル・スキルを補うことができる。集約することができれば、原因や解決策はテンプレートから導ける。

 「コンサルタントは自分の得意分野に話を持っていこうとする」とよくいわれる。これは、コンサルタントが、まず「自分の持っている問題点を鳥観するためのテンプレートに当てはめることができるかどうか?」を考えることを指している。このようなテンプレートを持たずにコンサルティングしているコンサルタントは、いないのではないだろうか。

テンプレートをどの場面で使えばよいのか

 2種類のテンプレートがコンサルティングのどのプロセスで使われるかを整理してみる。

図表3:IT戦略立案方法例

 図表3に示した筆者のIT戦略立案方法では、現状分析の現行業務分析、現行システム課題調査、問題点整理・原因の分析、解決の方向性検討の各プロセスと、システム化方針策定の新ビジネスプロセスの設計で、この2種類のテンプレートは活用される。

 現行業務分析、現行システム課題調査では、会社全体を鳥観するためのテンプレートを活用して業務を階層的に把握する。そして、これとともに問題点全体を鳥観するためのテンプレートによって、問題点の抽出を容易に行うことができる。

 問題点整理・原因の分析では、問題点全体を鳥観するためのテンプレートにより、テンプレートで提供された改革のポイントへの集約化を検討する。このことで、問題点整理・集約化、原因の追究を効率的に行うことができる。

 解決の方向性検討では、問題点全体を鳥観するためのテンプレート改革のポイントの解決策が適用を検討することで、容易になる。

 新ビジネスプロセスの設計では、会社全体を鳥観するためのテンプレートを活用することで、部分最適に陥らず全体最適なビジネスプロセスを設計することが容易になる。

テンプレートは時代とともに変わる

 ビジネスプロセスにしても、問題点にしても、経済環境、社会環境の変化により変化する。新たな経営手法や管理手法が提唱され、普及していくことによっても変化する。システムによる解決策は技術革新によっても変化する。

 従って、テンプレートは一度作ればそれで未来永劫(えいごう)使えるというものではない。時代の変化に合わせて、テンプレート自体の見直しを図らないとコンサルタントとして必要なコンセプチュアル・スキルを支援するものにはならない。

Profile

井上 実(いのうえ みのる)

横浜市立大学文理学部理科卒。多摩大学大学院経営情報学研究科修士課程修了。グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。人材ポートフォリオ構築、人材開発戦略立案、キャリアパス構築などに関するコンサルティングを担当。中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。

第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。

著書:「システムアナリスト合格対策(共著)」(経林書房)、「システムアナリスト過去問題&分析(共著)」(経林書房)、「情報処理技術者用語辞典(共著)」(日経BP社)、「ITソリューション 〜戦略的情報化に向けて〜(共著)」(同友館)。


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