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» 2004年03月01日 21時45分 UPDATE

ネット上の名誉毀損、どう対処する?

インターネットは、誰でも簡単に情報を集め、また誰でも容易に情報を発信できる場所だ。しかし、その手軽さや匿名性から、虚偽の情報を流されたり、一方的な誹謗中傷にさらされることもある。もし自分の会社や自分自身が被害者の立場になったら……。

[芹澤隆徳,ITmedia]

 インターネットは、誰でも簡単に情報を集め、また誰でも容易に情報を発信できる場所だ。しかし、その手軽さや匿名性から、虚偽の情報を流されたり、一方的な誹謗中傷にさらされることもある。もし自分の会社や自分自身が被害者の立場になったら……。今回は、名誉毀損にフォーカスして対処方法を探ってみたい。

 一口に名誉毀損といっても、実際はいくつかに分類することができる。名誉毀損の法律上の定義は「公然と事実を摘示し、人や企業の名誉を毀損すること」。事実を摘示せずに公然と他人を侮辱した場合は「侮辱」、虚偽の風説を流布するなどして人の信用を傷つけた場合は「信用毀損」と呼ばれる。また、特定の発言を指して名誉毀損であると主張しても、それが「公共の利害に関する事実であり、公共の利益を図る目的で行われ、さらに真実であると証明された場合」は不成立になる。

 では、実際にネット上で自分の名誉が傷つけられたとき、どのように対応すれば良いのだろうか。ACCS主催のセミナーで講演を行った染井・前田法律事務所の中川達也弁護士によると、「まず、静観するという手がある」。誰が見ても真実とは思えない記述だったり、影響が少ないと思われるなら、無視すればいいということだ。下手に反論して発信者を刺激し、泥沼化する危険を避ける意味でも有効だという。

 ただし、影響が大きいと判断した場合は、メールを使って本人へ警告したり、プロバイダへ削除を要請するといった選択肢があるだろう。そのとき、相手の連絡先が分かるのであれば話は簡単だが、分からない場合はサイト開設者にメールを送付することになる。

 このとき注意したいのは、「送付したメールなどはネット上に公開される可能性が高い」ということ。1999年に起きた、いわゆる“東芝ビデオデッキ事件”や、最近の“ライブドア・イーバンク論争”のように、Webに公開されたために報道機関が取り上げ、火に油を注ぐ結果になることも少なくない。中川弁護士は、「公開されることを前提として、それに耐えうる内容かどうか、事前に精査すべきだ。いきなり警告するのではなく、事実確認や、場合によってはお詫びの文面から入る場合もあるだろう」と指摘している。

 そのほかにも注意しなければならないことがいくつかある。たとえば、企業の場合なら、自分が知らないだけで相手の言い分が事実である可能性にも配慮したい。そのほかにも、「法的な誤りの有無、メールが脅迫や強要と受け取られる可能性がないか、不当な言論弾圧として対外的な非難を浴びないか、といった点にも留意すべきだ」(中川氏)。

 メールを受け取った相手が自主的に削除してくれたのなら話は早いが、相手が誰かわからないケースのほうが多い。連絡を取りたくてもとれず、とにかくWeb上から当該部分を消したいときは、プロバイダやBBSの運営者に削除を要請するという手がある。

プロバイダへの削除要請

 2001年11月22日に成立した「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」〜通称「プロバイダ責任制限法」は、インターネット上に公開されている情報で個人のプライバシーや著作権の侵害があったとき、プロバイダーが負う損害賠償の「責任範囲を規定」したものだ。

 本来、「通信の秘密」は、プロバイダのような通信事業者にとって大原則。発信者の個人情報や通信内容を知り得ても、秘密にする義務がある。しかし、犯罪に関係したり、権利侵害といった特別な場合には、発信内容を削除したり、発信者の情報を開示する必要も生じる。その範囲を規定し、プロバイダ側の免責事項を決めたものがプロバイダ責任制限法だ。条文を読むと、どのような場合に“発信内容の削除”や“発信者情報の開示”を請求できるかがわかる。

 まず、発信者の個人情報が開示されるのは、権利侵害が明らかである場合や、損害賠償請求の行使のために必要といった極めて狭い範囲だ。中川弁護士によると「現在では、訴訟によらない限り不可能」という。

 一方、削除請求のほうは比較的間口が広い。グローバルメディアオンライン法務監査室長の橘弘一氏によると、Webサイトなどに記載された情報をプロバイダ側が削除しても発信者に責任を負わないのは「他人の権利が侵害されていると信じるに足りる“相当の理由”があったとき」という。

 では、“相当の理由”とは何か。「相応の理由とは、つまり司法判断に委ねるということだ。しかし、判例の蓄積を待っている間にも事件は起こる」(橘氏)。実際、プロバイダ責任制限法にあるような抽象的な表現だけでは、実際に事案を抱えたISPが判断に困ることが予想される。そこで、日本インターネットプロバイダ協会や日本テレコムサービス協会(テレサ協)などが音頭を取り、削除要求への対応について一定の判断基準を示した「ガイドライン」を定めた。

 ガイドラインは現在、「名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」と「著作権関係ガイドライン」の2種類があり、削除請求を行う際に使用する標準書式も用意されている。プロバイダの立場でガイドライン策定に関わった橘氏は、「書式の“ひな形”に沿って請求を行えば、ISPの対応も早くでき、双方にメリットがある」と話している。また、書類記入時にいくつかの点を守れば、処理が早くなるとも。

 「まず、送信防止措置の明示的な請求だ。要するに、“消してくれ”と明確な意思表示をすること。また、申立者(削除を請求した人)の適格性を照明するため、免許証のコピーや印鑑証明などを添付すると良い。さらに、侵害情報の適格性、侵害された権利、侵害されたする理由の3つを明記する。これらをしっかり書いていないと、IPSは申立者に書簡で問い合わせることになり、事務手続きは大きく遅れる」(橘氏)。標準書式には、権利侵害に該当するURLや掲載された情報など必要な項目が並んでおり、これに従って記入すれば情報は過不足なく記入できる。

 権利を侵害されたとする申し立てがあると、プロバイダはまず情報削除の申し出があったことを発信者に連絡する。そして、7日以内に発信者から反論がなければ削除するという手順だ。

 注意したいのは、プロバイダ責任制限法による発信者情報の請求や削除請求は、あくまで民事上の権利侵害を対象としていること。たとえばサーバの損壊などを伴い、刑事事件となる可能性が高い案件については、発信者の情報を求めてもプロバイダ側は対処できない。

 ネット上の名誉毀損が刑事告訴で立件されるケースは希だが、違法性が明らかで、かつ悪質な場合には起訴される可能性もあるという。「交通事故の加害者がネットで遺族を中傷し、起訴された事例がある」。なお、刑事告訴で加害者が有罪となった場合、3年以下の懲役もしくは禁固、または50万円以下の罰金が課せられる(刑法230条)。

 手軽で自由な発言の場として多くの人に使われるようになったインターネットだが、一方でプロバイダ責任制限法のような法整備も徐々に進み、プロバイダや各種サービスの運営会社もそれを意識せずにはいられない状況になってきた。たとえば奔放な発言で知られる「2ちゃんねる」でも、発言者のIPアドレスを含むログを保存していく方針を打ち出している。ネット上の発言は、仲間内で交わす陰口とは違う。不特定多数の人間が読むことを考慮し、当たり前の倫理に基づいて行動することを心がけたい。

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