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「副作用」は覚悟していた――文化庁に聞く著作権法改正の舞台裏第2回 輸入音楽CDは買えなくなるのか(3/4 ページ)

» 2004年05月13日 10時59分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 しかし、「彼らが賛成しているのは『日本に還流防止措置が設けられること』で、アジア諸国向けとして出荷している低価格商品が日本に入ることを防ぎたいのです」とRIAAおよびIFPIからの要望は、無差別的な輸入権行使を求めるものではないと説明する。

 「文書がまるで秘密文書のように取り扱われてしまって……(苦笑)。審議会の資料として参加者に配布した資料がネットで出回ってしまっているのではと思います」

photo 文化庁も存在を認めたRIAAおよびIFPIからのパブリックコメント。「審議会の参加者が持ち帰ったものがネット上に掲載されているのでは」と言うようにその英文や邦訳が“流出”している

 パブリックコメントは一般公開されていない。だが、これは何も隠しているのではなく、一般公開することを念頭において募集しなかったという単純な理由からであり、情報公開請求があればいつでも開示するという。

再販制度との両立は業界への過保護ではないのか?

 前回の記事で触れたシンポジウムでは、『ビルボード』誌アジア支局長のスティーブ・マックルーア氏や音楽評論家のピーター・バラカン氏が声をそろえて、「輸入権」と「再販制度」の両立はおかしいと意見を述べている。取材中、複数の消費者団体からも、これは「CDの高値安定を助長するものだ」という声を聞いた。

 「多少の誤解があるかもしれませんが、現状、CDの再販制度は一定期間のみ価格を保護するもの。著作権法が改正された場合、日本レコード協会はその期間を最長で1年にするとしています」

 ヒットチャートは日替わり・週替わりで入れ替わる。1年も保護できれば、ある意味十分過ぎるのではないだろうか。

 「価格維持期間を6カ月、1カ月と短くすればバランスがとれるかもしれません。しかし、そういった細かな調整は(文化庁が判断すべきこととは)なじまないものです。アーティストの権利と消費者の権利が、うまくバランスがとれるようになればいいとは思いますが……」

 「もちろん、再販制度をそのままに輸入権を手にしたいということならば、簡単に認めるわけにはいかない話です。しかし、(日本レコード協会側が)期間短縮を提案してきたこともあり、受け入れたというのが実情です」

 文化庁は、言ってみれば著作権者(アーティスト側)の利益を保護するのが立場。改正案中にある「利益」も著作権者が受け取るライセンス料を指しており、消費者利益というわけではない。消費者の利益保護という部分になると、どうしても歯切れが悪くなるという印象は否めない。

 しかし、音楽離れが進んで購入者が減少すれば、いくら著作権者を保護しても彼らは潤わない。法案が参議院を通過した際の付帯決議には、消費者利益を損なわないように配慮することが明記されているが、消費者への具体的な配慮は考えられているのだろうか?

 「再販制度は小売店保護にもなりますし、著作権はアーティストの権利を保護します。小売店・流通・著作権者を保護することによって、音楽文化が盛り上がればいいと思っています。世界的に見れば輸入権はありふれたもの。それを理解してくれればと思います。輸入物についての著作者の権利というものは、世界的に見ればもっと厳しいものです」

 「元来、著作物の輸入は自由ではないのです。ですが、譲渡権が認められていることもあるので、さまざまな要件をつけて、可能な限り消費者に影響が出ないようにしているのです」

 あくまでも文化庁としての立場では、著作権者ならびに小売り・流通の保護が第一と森下氏は繰り返す。そのなかで、消費者利益を最大限に考慮したのが、現在の法案というわけだ。

 「懸念されるところがあるというのは理解していますが、努力した結果と考えてもらいたいです。もちろん、(今後)見張りもしないというわけではないです。消費者への影響があると分かれば審議会にかけるなどのアクションは起こしていきます」

「ケースバイケース」となる個人輸入

 法案が施行されると、ライセンス提供元の判断で輸出停止が可能になる。輸入権の運用方針が不明確ならば、輸入盤ディストリビューターがリスク回避の面から輸入に慎重になり、「輸入可の輸入盤までが市場から減る可能性がある」と指摘する声がある。

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