ゴールデンウィーク中の5月4日。新宿・歌舞伎町の「新宿ロフトプラスワン」で行われたイベントは、会場の外まで人があふれていた。もともと150〜170席でいっぱいの、さほど大きくはないライブスペースだが、ロフト側によると来場者は優に200人を超えたという。結局入れなかった人もたくさん出た。
といって流行のアーティストがライブを行ったわけではない。この日開催されたのは、現在国会で審議が進められている著作権法の改正によって、輸入CDが実質的に買えなくなるのではないか――という問題を考えるシンポジウムだった。
題して「選択肢を保護しよう!! 著作権法改正でCDの輸入が規制される? 実態を知るためのシンポジウム」。主催者は特にないが、音楽評論家のピーター・バラカン氏と高橋健太郎氏の2人が発起人を務めた。
パネラーとして参加したのは、国会で実際に法改正の審議に携わっている民主党の川内博史衆議院議員のほか、『ビルボード』誌アジア支局長のスティーブ・マックルーア氏、藤川毅氏(音楽評論家)、佐々木敦氏(HEADZ代表・音楽評論家)、石川真一氏(輸入盤ディストリビュータ・リバーブ副社長)、高見一樹氏(East Works Entertainment)、中原昌也氏(ミュージシャン)、野田努氏(『RIMIX』誌スーパーバイザー)といった、いずれも日本の洋楽文化に深く携わってきた人たちだ。
バラカン氏によれば開催までの準備期間は10日ほどだったそうで、それでもこれだけの人が集まったことに、危機感の強さがうかがえる。
輸入CDの規制と言うと、まず読者が思い浮かべるのは「還流CD」の問題だろう。日本のレコードレーベルが日本人アーティストのCDを海外(主としてアジア圏)向けに販売したものが日本に逆輸入され(還流)、国内版より安価で販売されるものを指す。
この還流CDの市場規模は推定で68万枚程度とまだ微々たるものだが、このまま拡大していけば、国内の邦楽CD市場を根底から揺るがしかねない。
というのも、海外市場向けCDはその国の市場実勢にあわせた価格設定が行われているが、日本では再販制度によって邦楽CDの価格維持が図られている。ジャケットや曲タイトルが中国語や韓国語などであることを除けば、還流CDの“中身”はリスナーにとって国内版となんら変わりはない。レーベル側からすると、還流CD市場の拡大は、再販制度の実質的な形骸化をもたらしかねないからだ。
資源に乏しい日本は著作権を積極的に財産として活用していかなくてはならない、という政府方針が発表され、知的財産戦略本部が設立されたのが昨年3月。
そうした流れのなかで著作権法の改正についての議論が行われるようになり、還流CDを規制して、国内のレコード会社を保護するべきかどうかという問題も俎上に上るようになった。実際に審議を行ったのは、文部科学大臣の諮問機関である「文化審議会 著作権分科会」だが、レコード業界が還流CD阻止に向けて積極的に働きかけを行ったことはいうまでもない。
ただ、この時点では、(おそらくごく一部の人を除けば)大半の人々が、審議されているのは「還流CDの問題」だと思っていた。還流阻止の働きかけを行っていたレコード会社や業界団体の幹部たちでさえ、そう考えていたフシがある。いや、今でもそう思っている人が少なくない。
著作権分科会が報告書を取りまとめたのが2004年1月14日のこと。だが、著作権法の改正は、そこから奇妙な動きを見せる。
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