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日本のCD価格は安くなる?――法改正がもたらすエンドユーザー利益の真偽最終回:輸入音楽CDは買えなくなるのか?(2/3 ページ)

» 2004年05月19日 16時54分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 今回の法改正に際し、レコ協サイドは再販価格の維持期間を1年に短縮することを申し入れた。また輸入権によって日本人アーティストがアジア進出を果たすことで、その利益は邦楽CDの価格低下という形で日本のユーザーに還元される、と説明している。

 ただ、そもそも日本のレコード業界は日本のレコードが高過ぎると考えているのだろうか?先の参議院文教科学委員会の4月15日の質疑で、レコ協の依田巽会長はこうした指摘について、次のように答えている。

 「わが国のレコードについては、価格の多様化、低価格化が進んでおり、昨年1月から11月までに日本レコード協会会員レコード会社が発売した邦楽アルバム4445タイトルの価格を分析しますと、2500円未満の価格のものが41.5%と最も多く、平均価格も2315円、税込みで2430円となっております。(中略)したがいまして、大体平均2500円未満の価格のものが41%の市場でシェアを持っておるということでございます」

 「これを先進国の中で比較した場合、日本はイギリス、フランスとほぼ同水準でありまして、アメリカは日本より2割ないし3割程度安いという認識はしております。しかし、レコードは、収録された音楽、すなわち音だけではなくパッケージ、すなわち装丁を含めて一つの芸術商品であります。日本の国民は欧米に比べて豪華な仕様を好む国民性があります。それはお店で見比べていただければ御理解いただけると思います。また、世界62億人をマーケットとするアメリカと1億2000万人をマーケットとする日本とでは市場規模に格段の差がある以上、相応の価格差が生ずるものと思われますし、これについては難しい問題がございます。(中略)したがって、日本のレコードの価格は欧米諸国と比較して決して高くないと考えております」

 もちろん、なんの努力もしないと言っているわけではない。「価格のほか、収録曲の数の増加や、CDとDVD複合商品の発売など、消費者ニーズに応じた様々な還元策を実施してまいります。最近では、CDとDVDが一体になった作品を従来の価格とほぼ変わらない価格で販売しているという事実が市場では非常に多くなっております。これもすべて消費者還元あるいは競争力の観点から基づく、市場原理に基づく価格戦略であります」(依田会長)。

 確かに最近、ボーナストラック(リッピング対策を兼ねているものもあるが……)のほか、CD+DVDでDVD側にプロモーション用のビデオクリップを収録したもの、初回限定版と銘打って豪華なブックレットを付けるものなど、特に売れ筋とされる邦楽CDについてはそうした“努力”が目立つ。

 しかし、アナログLPと比べて、CDの場合、プレスのコストは非常に安価で、海外プレスで質を問わなければ1枚当たり数円程度からある。CDのレーベル面への印刷コストは、ピクチャー印刷であれば10円強かかるが、2色印刷なら数円程度だ(もちろんこれらは枚数に依存するが)。メディア代、プラスティックパッケージ代(10数円)などを含めても、数十円の前半で収まる程度だ。

 原盤にあたるスタンパーを製造するのに10万円弱ないし数万円かかるとされるから、ごく少量しか生産しないCDの場合、そのコストがモロに価格に跳ね返るが、大量生産する売れ筋商品ならこれはほぼ無視できる。こうした売れ筋商品は、箱詰めなどの作業も海外で行っているケースが多く、ギリギリまで低コスト化を図っている。おそらく一番コストがかかるのが、豪華なジャケットの制作費だろうが、いずれにせよ、音楽CDの「本体」のコストは、音楽CDの価格からすれば微々たるものなのだ。前回も触れたが、音楽CDの価格の大半は、CD実態ではなく、プロモーションなどの目に見えない人件費である。

 たくさん売れるものは、その分、販売価格を落とせる。音楽CDは本来、そういう構造になっている。だが、現実は違う。売れ筋商品ほど3000円に近い価格設定が行われている。タイトル数別のシェアであれば確かに2500円以下のものが大半を占めているかもしれないが、売上げ別という面で見れば、そうはなっていない。

 試みにTSUTAYA Onlineの邦楽アルバムベスト10(2004年5月9日-15日)にランクインしているアルバム10枚の平均単価を算出してみたところ、税込み2927.8円。2500円以下のアルバムは1枚だけだった。なお、10枚のうち、hitomi「TRAVELER」と大塚愛「LOVE PUNCH 」には初回限定版やDVD付きがあり、こちらは3800円。また、尾崎豊「13/71-THE BEST SELECTION」にもDVD付きがあり、3300円。これらは通常盤がいずれも3059円なのでそちらで計算したが、付加価値を付ける場合、それなりの価格が上乗せになっていることが分かる。

 高くても売れるものならその価格で売る――これも経済の初歩ではある。文化産業であるレコード業界の場合、そうして得た利益を“売れそうにもないけど出したい”音楽のリリースに充てるという考え方ももちろん成立する。

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