コラム
» 2004年06月03日 09時39分 UPDATE

自動車のフライトレコーダーは是か非か「Witness」は、物言えぬ被害者の“最後の味方”だ (1/3)

米国では自動車備え付けのブラックボックスの是非を巡る議論が盛んだ。一方、日本ではタクシーなどで、事故発生寸前からの映像を撮るシステムが導入され始めた。このシステムは物言えぬ被害者を救済するだけでなく、安全運転を促すという副次的効果ももたらしている。

[竹村譲,ITmedia]

 かなり以前に運転免許を失効した筆者だが、マイカー通学だった学生の頃、遅刻気味で、彼女を迎えに制限スピードを少しオーバーして目標地点に向かっていた。見慣れたいつもの大きな交差点の手前で、その時、ちょうど右側の対抗車線に直角合流する細い一方通行道を逆行して進入して来たクルマがいた。

 驚くことにそのクルマは筆者のすぐ右前方にある緊急自動車用の低い中央分離帯を乗り越えて、筆者の目の前20メートル近辺に突如進入した。ほとんど回避は不可能で、筆者はその業務用のライトバンの側面に大きな衝撃とともに激突した。

 一瞬、急ハンドルを切って、何十分の一かの確率で左側に逃げ切ることも考えたが、ルームミラーに映った左後方にいた全く関係ないクルマと接触して、本来の事故原因者の運転するクルマが無関係の第三者になって走り去ってしまう可能性もあった。

 やむなく意を決して、まっすぐにライトバンの左側面に激突した。モノコックボディだった筆者のクルマは「く」の字によじれ、全損・廃車。相手側は衝突地点の先の交差点の真ん中まで跳ね飛ばされて停止。交差点は一瞬にして大渋滞となった。

 幸い安全ベルトをして、衝突を覚悟していた筆者の怪我は、少し額を切ったくらいでたいしたことはなかったが、救急車に乗せられ、大きな救急病院の脳神経外科で足止めを食らうこと約3時間。自宅に帰れたのは事故から数時間後だった。たった一度の事故だったが、その後も、ハンドルに両腕を突っ張って激突する悪夢を何度となく見た記憶がある。運良く軽傷だったとは言え、やはり交通事故は恐怖だ。

 昨今は減少したとは言え、日本の交通事故の被害者数は半端ではない。2003年度1年間の「人身交通事故発生件数」は約95万件。そして、死傷者は年間118万人(死亡は約7700人)を超えている。

 交通事故による死亡者の定義は、事故から24時間以内ということになっているようなので、厳密にはもっと多いに違いない(*1)。日夜、健康管理に気を配り、苦労して手に入れた身体に優しいというスローフードを食べ続け、何とか企業のリストラをかいくぐっても、毎日20人以上の人が交通事故で突然命を奪われてしまうのが、この世の現実なのだ。それらに連動する自賠責保険・共済の支払額は約1兆円に達し、任意保険や医療保険の支払総額や掛け金総額、その他の関連費用を含む総額は想像を絶する程のビッグビジネスに成長している。これが現代日本の交通事故を取り巻く環境の真の姿なのだ。。

 自動車産業のテクノロジーが「スピードや燃費」と「安全管理」の両方に向けられていることは事実だ。そして昨今はその眼の行きどころが、大きく「安全管理」に傾いているのも確かだ。だが、いまさら「スピードの出ない自動車」は開発・販売されないだろうし、ごく一部の無謀な運転をするトラックトライバー撲滅のために、事故の際、一番先に衝撃を受けて破損するバンパーの位置に“ガラス張りの運転席”を設けた「慎重運転専用の大型トラック」が生産されることもない。

 不要と言われながらも高速道路は狭い日本の端から端まで張り巡らされ、その工事の勢いは今も相変わらずだ。高速道路のメリットを理解できない訳ではないが、残念ながら、エキスプレスラインはそのまま「事故製造ライン」となり、ほんの少しの気の緩みが「天国へのラウンチャー」となって事故を加速する。

 また品質管理とグローバルなコンペティションが生んだ日本の自動車の性能や安全性、耐久度がどれだけ向上しようとも、大きな疑問を抱えながら、相変わらずわが国の車検制度は、大昔と同じように継続され続けている。車検を終えたその日に、整備不良で事故っても、誰もドライバーをかばってはくれないのが日本の制度なのだ。

 一瞬のうちに起こる交通事故はそういう意味で、事後調査では完璧な再現が不可能で、不明な点が多く残り、実際の体験当事者も、時間の経過と共に、周囲の意見やその後の種々の要素で記憶が不確かになる傾向が強いものだ。

 目に余る現実世界が目の前に在ったとしても、法律や産業界と長く複雑な関係を抱えて来たお上の動きは遅々として進まないものだ。しかし、そういう希望の光のなさそうな世界でも、不思議と民間団体やベンチャーマインドのある企業から興味あるソリューションが提案がされる場合がある。

 (株)日本交通事故鑑識研究所と練馬タクシーが共同開発した「Witness(目撃者)」もその一つだ。同研究所の話では、過去の多くの事故例の中には、「亡くなったり、重傷を負って証言ができない被害者が、周囲のあいまいな目撃者の証言や、自己保身から自分に都合のよい嘘をつく運転者の言い分などによって、いつの間にか加害者に仕立てられてしまう」という“二重に不幸な”事件もあったようだ。

jn_witness01.jpg Witness本体はコンパクトでCCDカメラ、Gセンサー、記録メモリを内蔵

 当事者の一方が何らかの理由で、正当な申し立てを出来ないケースや、双方の意見が大きく食い違う場合などには、事故そのものの“より客観的なデータ”が必要だ。


*1 最近では、24時間を超え、30日以内に死亡した人を、「30日死者」としてその統計数値を公開している。

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