「パソコン通信」とは何だったのか(1/3 ページ)
読者の中で、「商用BBS」と言って通じる人がどれぐらいいるのだろうか。だが40歳前後の人たちには、限りなく懐かしい響きなのである。今でもたまに集まって酒を飲む古くからのパソコン関係の仲間内では、寄ると触ると「やっぱりモデムはクーリエ」だの「bpsで言うな、ボーで言え」だのパソコン通信の話で盛り上がる。
ちなみにクーリエを作っていたU.S. Robotics社は3Comに買収されて今はないが、アイザック・アシモフの『われはロボット』に登場する社名であったことから、最近映画「アイロボット」で久々にその名前を聞くことになった。
話が脱線したが、正確には懐かしいという感情とも微妙に違うようだ。かつての不自由な通信インフラにかけた時間と労力と青春とお金を考えると、なんであんなに必死だったのか、己のバカさ加減に笑ってしまう、というのが率直なところかもしれない。
ニフティがパソコン通信サービス終了というニュースを聞いて、パソコン史の中でまた一つ時代が終わったことを実感する。
商用BBSの趨勢
現在、一般ユーザーにとって「パソコンを使う」と言うことは、ほぼインターネットを利用するということと同義語になっている。今やパソコンの存在意義が、ネットからやってくるコンテンツや情報の処理機となっているのだ。知ることや誰かに連絡することが主たる目的であり、昔のパソコンの使い方から比べると、使い方が全然違っている。
インターネットが普及する以前、パソコンとはどんなアプリケーションを使うかで、その存在がどのようにでも化ける魔法の箱だった。個人所有のパソコンに対して、ワープロソフトを買うのは文章を書く必要がある人で、エクセルや1-2-3を買うのは会計業務をやる必要がある人だ。MacとPerformerは音楽をやる人の定番だったし、グラフィッカーはPhotoshopとIllustratorを持っていて当然だった。
だが、ただひたすらパソコンをコミュニケーションのためだけ使おうという人は、存在しなかった。まったくいなかったわけでもないだろうが、真っ当に考えればコストが全然合わなかったのである。
そんなパソコンユーザーの一部が、自分のパソコンの貴重なリソースを割いて、“パソコン通信”という場に集まった。当然それぞれパソコンに対して目的があり、専門家たちの情報交換の場となる。そんな背景から、全国レベルで展開する商用BBSには「その道のプロ」が集うこととなった。
秩序と倫理
NIFTY-Serveには、「フォーラム」というテーマ別に分けられたコミュニティの単位があった。専門フォーラム内の会議室は、もっぱら同業者間の談笑と、シリアスな質疑応答に分けられていた。
当時パソコンに関する情報源といえば、パソコン誌を手当たり次第に読み漁るか、ショップの常連客から話を聞くぐらいしかなかったわけだが、それではパソコンそのものに関する情報しか得られない。自分の専門分野にパソコンを組み入れる際の特殊な疑問は、同業者に聞くほかなかったのである。
そこは匿名の世界ではあったが、礼節には厳しい社会であった。知るものと知らざるものの差は、限りなく大きかった。今ならちょっとした調べ物ならググれば済むことだが、当時は困ったことがあっても、他に調べる手段がなかったのである。
当時の知識の多くは、個人が膨大な時間を費やした検証結果であったり、長い経験による蓄積によるものであった。それをタダで同業他者に教えるわけである。実社会と同じように、そこにはホトケサマのような人たちばかりがいるわけではない。必然的に「人にモノを訪ねるにゃそれなりの言い方ってもんがあるんだよ」ってことを、イヤと言うほど教わることになる。
「氏ね」や「逝ってよし」のようなコミュニティ固有の罵倒語は、まだ発明されていない。商用BBSでは誹謗中傷は禁止されているため、フォーラム内で直接ヒドいことを言われることはない。その代わり、よってたかって理路整然と長文の説教を食らう。
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