たとえば中〜上級モデルではS端子やコンポジットビデオ信号など、地上アナログ波相当の480i信号をプログレッシブ処理し、コンポーネント(あるいはD端子)映像端子から出力する機能を持っているものもある。その際の処理によっては、画質がむしろ向上するのである。
また今後、デジタルテレビとAV機器の接続は、HDMI端子が使われるようになるだろう。HDMI端子には、低解像度の映像をハイビジョン信号にまで拡大処理を行ってから出力できる。一部機種には高画質な拡大処理チップを内蔵させているものが存在する。
いずれも一部高級機種の話だが、いずれは普及機種にも導入され一般化していく。すると映像切り替え機能を、むしろ積極的に利用するユーザーが多くなるはずだ。
SACDやDVDオーディオもAVアンプに変化をもたらした。これらの高品質マルチチャンネルオーディオは、従来のデジタル音声端子(S/PDIF)では情報をすべて送ることができない。このため、6チャンネル分のアナログ音声端子、もしくはi.Linkなど高速のシリアル通信ポートが再生時に必要となってきている。
ここ数年のハイエンドAVアンプは、音楽を聴く上でも十分な品質が得られる事を求められていたが、今後は5万円前後の普及価格帯でもオーディオアンプとしての素養が求められるようになる。
AVアンプのオーディオアンプとしての質は、これまで特に普及価格帯では決して褒められたものではなかった。低価格なところに、5〜7チャンネル分のアンプを詰め込んでいるのだから、コスト面を考えても、2チャンネルステレオのアンプよりも厳しい事が想像できる。
その上、映像信号やデジタル信号など、オーディオ信号のノイズ源となる回路が筐体内には満載されている。これらのノイズ源からの影響を避けようと回路にフィルターを挿入すると、とたんに音質が劣化してしまう。ノイズ対策はコストをかければ可能だが、ローコストでとなると難しい。
こうした様々な事情もあって、期待を込めてAVアンプを購入したのに、実際にCDを演奏させてみると残念な気持ちになった、という経験をする人が後を絶たなかったように思う。それも初期のうちは、サラウンド再生の魅力が打ち消していた。
しかし、デジタル放送により5.1チャンネル音声に触れる事が多くなると、自然と幅広いユーザーがAVアンプを使うようになるだろう。AVアンプとしての機能はもちろん、AVアンプで音楽を聴き、その音質に期待するはずだ。リクツを理解した上で、AVアンプは音が悪いと諦めている人は少ない。
こうした背景や各社の競争がエスカレートしてきた事もあって、中級機以下のアンプでいかに音質を高めるかが、今年のテーマとなっていくかもしれない。音質に対する反応は、たとえマニアでなくとも敏感なもので、明らかに質が劣ってしまうと、誰もが不満を抱えるモノだ。メーカー側も、そこを対処することで、自らのブランドを高めようとしている。
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