液晶テレビが躍進した背景には、シャープの亀山工場に代表される大規模な液晶製造工場への投資と、生産能力向上によるパネルコストの低下が挙げられるだろう。30インチ以上の大型パネルでもコスト競争力がついたことが、液晶テレビ躍進の下地となったのだ。
一方、ご存じの通り松下の尼崎工場が本格稼働すれば、プラズマディスプレイパネルのコストも大幅に下がる。
しかしこの2社だけではない。世界的にフラットパネルの生産能力は急上昇し、今度は工場の稼働率を上げることが難しくなってきている。工場の稼働率を上げなければ最大限のスケールメリットを出すことも難しい。コスト競争力を付けるには稼働率のコントロールは非常に重要だ。
ところが先に挙げた亀山工場も、市場での人気にも関わらず、実は当初予定していたほどの稼働率を達成できていないようだ。その理由はOEM事業の不調にあると見られている。本業のAQUOSブランドは絶好調だが、OEMでのパネル販売が想定外の不振にあえいでいるのだ。
このため富士通のパソコンテレビ用としてや、ヒューレット・パッカードが米国で販売する液晶テレビ兼用ディスプレイとして使われたり、バイ・デザイン製液晶ディスプレイにもシャープ製パネルが採用されるようになってきている。もちろん、出荷仕様は対象OEMごとに異なると思われ、AQUOS用パネルと同じものではないと見られるが、稼働率を上げるために従来以上に幅広いOEMに対して供給を始めている。
その背景には、たとえば松下の液晶パネルの調達先変更などの事情もあるようだ。松下は高級モデルは日立、普及モデルはシャープといった使い分けで液晶パネルの調達を行っていた。これは主にS-IPSパネルの広視野角を意識してのラインナップだったようだが、実際に売れたのは日立パネルばかりだったという。そこで松下は新製品から普及機にLGフィリップスのIPSパネルを採用し、シャープ製パネルの採用をやめた。
巨大工場を造ることで他社に優位に立ち、十分な生産能力をキープしつつ、余剰生産能力分はOEMでまかなう手法は、この手の事業では常套手段だ。しかし同じことをやっているのはシャープだけではない。現時点ではAQUOSの絶好調が亀山工場の投資を支えているが、果たしてこの先までは、となると予想が付かない。
もちろん、同じことは松下のプラズマ工場にも当てはまる。プラズマテレビにおいて松下電器は圧倒的なシェアを持っているが、言い換えればOEM先が非常に限られてしまうことも意味している。
現在、一部の松下製プラズマパネルはバイ・デザインへとOEMされているようだが、果たして需要予測が狂ってきた時にどこまでの弾力のある運用を行えるかが正否の鍵になるだろう。北米や中国でのプラズマテレビの人気の高まりもあり、国内動向だけでは予想できない部分もあるが、リスク含みであることは確かだ。
最終的には価格の叩き合いになるかもしれない。
しかし価格競争になれば、プラズマの方がインチ単価では有利になる。例えば来年以降、インチ単価が6000〜6500円のレンジになったなら、32〜36インチに代わって42インチクラスがリビングの主役となり、50インチクラスも手の届く範囲に落ちてくるだろう。
そうなれば液晶テレビとプラズマテレビの力関係も、再び拮抗してくるのではないだろうか。
ごく個人的な感想を言えば、液晶テレビとプラズマテレビの動向でもっとも気になったのは、消費者が画質に対して自らの判断を放棄しているように見える点だ。以前であれば、細かな論評は抜きにしても、自分の目で確かめ、程度の違いこそあれ自信を持って良い画質の製品を選んでいたように思う。
しかしテレビの選び方は複雑化してしまった。もうブラウン管という同じ土俵の中での比較ではない。単純に店頭だけの評価では、どの製品が自分にとってベストなのかを選びにくくなっている。パネル解像度の違いや入力端子種類の増加、消費電力や発光寿命などの話題も、そうしたテレビ選びの複雑性をさらに増長している。
そうした事情が、液晶テレビへの極端なシフトを演出したのかもしれない。
ここまで誤解を恐れずに書いてきたが、液晶テレビの画質がリビングルーム向きではないと言いたいのではない。液晶かプラズマかの議論は、視聴環境や見るソースの傾向によっても異なる。液晶テレビの方が高解像化には適している点も考慮しなければならない。しかし、一律的に決められない問題に対して、一律化された答えしか出てこないところに、ややいびつさを感じるのだ。
高画質のテレビが好まれる傾向が強かった“こだわり志向”の日本市場で、市場が画質に対する判断を行いにくくなり、結果として価格中心や製品イメージ中心にモノ選びがされるようになると、画質での優位性を保ってきた日本の映像機器がその力を失うのではないか? との危惧もある。
もちろん、そうはならないと信じてはいるのだが。
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