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ケーブルテレビに見る“放送網とIP網の未来”小寺信良(3/3 ページ)

» 2005年06月20日 14時22分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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IPと番組制作の関係

 放送とIPという点では、番組制作を支えるバックボーンシステムで面白い製品があった。アットネットホームのDV伝送システム「@NetDV」は、ケーブルテレビ局が持つ光ファイバーのIP網を利用して、AVI Type1のDVフォーマットの映像と音声をそのままIPベースで送受信する装置である。

photo アットネットホーム製の「@NetDV」

 IPベースで映像をやりとりするシステムは、放送機器ではあるものの、そのほとんどはMPEG-2かMPEG-4ベースである。この製品の画期的なところは、CATVではメインカメラとなっているDVフォーマットに注目した点だ。CATV局では、編集機や送出システムなどを、放送機器よりも安価な業務用DV機器で構築しているケースが多い。そこにいきなりMPEG-2やMPEG-4がやって来ても、処理できる機材がない。@NetDVはそこに目を付けたわけである。

 もともとアットネットホームという会社は、CATV向けにITソリューションを提供するとして1999年に設立された、比較的新しい企業だ。いわゆるIT系と言っていいだろう。DVフォーマットをそのままIP転送するなどという発想は、映像畑からはなかなか出てこない。

 操作はカーナビのような10インチ程度の、本体付属のタッチスクリーンで行なう。実際には、27Mbps程度の速度があれば、DVカメラの映像やDVデッキの映像を(若干の遅延はあるものの)リアルタイムで伝送できる。遅延値は機材ごとに固定なので、スタート時間にオフセットをかければ、そのまま放送に出すことも可能だ。ちなみにDVデッキのコントロールは、i.LINKではタイムコードに対してしっかりロックできないということで、RS-422で行なっている。また写真からわかるように、コントローラー類はPC用の汎用品を利用しており、ITベースの専用機だといえるだろう。

 @NetDVにはストレージがないが、USB端子でHDDをつないだり、NAS、iSCSIも利用できる。カメラやデッキの映像ではなく、ストレージに記録されたAVIファイルベースの送受信には、FTP転送モードも備えている。IP回線速度が遅い場合でも、リアルタイムではないが転送することが可能だ。このあたりも映像屋が考えると、画質を落としてでもリアルタイム転送にこだわってしまうところだが、編集素材として映像を扱う分には、たとえ転送に時間がかかっても、画質は落ちない方がいい。

 さらにIPマルチキャストにも対応しているため、1対1ではなく、1対多の転送も可能だ。1カ所のDVカメラの映像を、複数のCATV局で受けることもできる。いわゆる共同取材の形もIPベースで可能なわけだ。

 さて、ここまで読んでだいたい想像されていると思うが、DVフォーマットが転送できるのならば、同じ帯域で記録するHDVフォーマットも転送できないか、と考えるのは自然な発想だ。実はすでにHDVフォーマットに対応した@NetDVも開発されており、会場では実際にソニーHDR-FX1の映像をリアルタイムで、ブース内の別の@NetDVにIP転送するというデモを見ることができた。

photo 会場ではHDVの映像を転送するデモが見られた

 HDVは今後、CATVでDVが主流フォーマットになったのと同じ理由で、スタンダード化していくことだろう。そしてテレビ業界には珍しくIT化が進行しているCATVだからこそ、こういう機材が使いこなせるわけである。

 もちろん機材やIPインフラ自体は、地上波民放局でも持っている。だが先日行われたライブドアの公衆無線LANサービス「D-cubic」発表会でも、フジテレビは業務提携と言いながらその実態は「記者が現場から原稿を送信する」程度の発想しか出てこないのには笑ってしまう。

 そんなもんケータイで済むじゃん。

 今まで専用回線か中継車しか使ったことがない地上波放送局では、IP網は単なるコンテンツの投下・収益回収のツールであって、番組制作のバックボーンとしての使い方が全然イメージできないのである。

 映像とIPの未来を見るならば、今CATVが一番面白い。キー局もあんまり尻が重いと、いつの日か「ケーブルテレビ様に番組を流させていただく」時代が来てしまうかもしれないことを、肝に銘じておくべきだろう。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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