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テレビでネットを使うか?西正(2/2 ページ)

» 2005年07月11日 11時01分 公開
[西正,ITmedia]
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 その辺りの事情は、固定テレビでネットの利用が行われるようになっても変わらないと思われる。混在表示ないし同時表示には、テレビ映像に便乗したフリーライド(タダ乗り)の懸念もある。民放としては、例えばトヨタがスポンサーの番組が放映されているのと同じ画面上で日産の車の広告をネットで流されても困るし、番組の出演者の秘蔵のVTRなどを売られることも好ましくないと考えている。後者の場合などは、視聴者がネット情報に誘導されて、そもそものテレビ映像が消されてしまうことすらあり得るからだ。

 ただし、テレビ上でネット利用が進むことになれば、そうした表示のされ方を放送局の意向だけで止めることは難しいと思われる。ユーザーも賢くなっているので、ネットから来るコンテンツと、放送から来るコンテンツの違いはちゃんと分かっており、それがたまたま一緒に表示されたくらいで、視聴者が混乱するとは限らないのかもしれない。

 混在表示ないしは同時表示については、現段階では放送局側が反対をし、その意見が通った形になっているが、放送局側としても、いずれユーザー側のリテラシーが上がってくれば、いつまでも反対意見が通るとまでは考えていないようだ。

 とりあえずのところは、ワンセグ放送でのソリューションが固定テレビについても参考になると言えるのかもしれない。

 ワンセグの場合の一次リンクは全く別の形になっている。最初にポータルとして表示される画面では、上にテレビ映像があって、下にデータ放送が表示される。これは両方とも放送波で送られる。データ画面はBMLで書かれていて、ニュースヘッドライン、ニュース速報、字幕、番組補足情報、関連サイトへのアクセスなどが表示される。

 データ画面から飛べるのが一次リンクの画面になる。そこでも、上はテレビ映像なのだけれども、バナーを張っておいて、下にBMLのコンテンツを通信から持ってくることができるようになっている。一次リンクでは、上が放送で、下が通信という構図が実現される。そのBMLのコンテンツは、放送局のサーバから持ってくる。一次リンク画面では、より詳細なニュース、放送局単位で送る地域情報、高画質画像の表示、Webへのアクセスツールが表示される。

 そこから二次リンクに飛ぶと、HTMLを利用した通信だけの画面になる。商業サイトへの誘導、有料情報、より密接な地域情報に行くことができるようになっている。単純に放送局のモバイルサイトに飛ぶケースもあるし、携帯用の通信コンテンツに飛ぶケースもあって、それはもうさまざまだ。

 一次リンクの画面までは放送局のサーバの中にあるコンテンツだから、放送局が管理している部分となり、テレビ画面上で一緒に表示されても、放送局はどちらの画面にも責任を持たなければいけない。しかし、二次リンクに飛んで誰が管理しているのか分からないHTMLのサイトまで飛ばれた時には、もう放送局は関知しないということになる。

 おそらく、固定テレビでも同じような形からスタートすべきであろう。最近のデジタルテレビはブロードバンドとの接続が前提となって作られているものが多い。BSデジタル放送が売り物の双方向サービスを生かせなかった理由は、テレビと電話線をつなぐユーザーが非常に少なかったからである。

 松下のTナビの利用率が伸びないのも、コンテンツの魅力以前の問題として、相変らず結線率が低いという事情があるようだ。ただし、ブロードバンドの普及のスピードが著しいことを考えれば、結線率の状況が短期間で大幅に改善していくことも考えられる。

 ハードとしてのテレビ受信機においても、テレビとネットの融合は進んでいくことになる。克服すべき課題を数えれば切りがないが、状況が一変する速さも尋常ではない。

 高齢化社会では、ネットを利用して何かを検索するにしても、PCの小さな文字を読むより大画面のテレビを使った方が便利なのかもしれない。実際にテレビ画面上でのネット利用が進めば、PCとは違う形でのコンテンツのあり方も提案されてくることになろう。いつまでも既存の常識の中に捉われて、「テレビでネットを使う人はいない」と決め付けているだけでは、次世代ビジネスで大きく遅れをとってしまうことになりかねない。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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