　ペイテレビの多くは資金を十分に調達できないため、クリエイティブな番組制作ができない。そうした事情もあり、プラットフォームが資金面での支援を行っている。その目的は、ペイテレビが地上波の手あかのついた番組を買ってきて流すのではなく、自ら番組制作を行い、ファーストランを有料で放送し、その後に地上波局に売るという環境を整えることにある。

　そうしたスカパー！の動きを考えれば、今後は制作プロダクションは地上波局からの番組制作を請け負うばかりでなく、自ら番組を制作してペイテレビにすることも可能になる。制作プロダクションとしては地上波局以外のソフトの出口を持つことができれば、地上波局との上下関係を是正する機会となりうるわけである。

　さらに注目を要するのは、「放送と通信の連携」が進んでいるという事情である。ブロードバンドの普及は予想以上に進んだが、大手通信会社の多くはそこに乗せていく優良なソフトを持たずに苦労している。

　ソフトへの投資という意味合いで、米国ハリウッドから高額の映画放映権などを購入してきているが、ブロードバンド経由でソフトを視聴する利用者が増えないことから採算が取れずに苦しんでいる。

　むしろ地上波局の持っている豊富なソフトをブロードバンド上に乗せる方が、日本人には受け入れられやすいとの思いを強くして、地上波局に対して番組の提供を要請しているが、放送用に作られたソフトを通信回線に乗せるためには、番組制作に関与した著作権者の同意を必要とする。その同意を得ることが容易ではないため、なかなかソフトの調達が進まないという現状にある。

　そうした事情に鑑みれば、大手通信事業者は自ら番組制作に投資することにより、ブロードバンド上に乗せるソフトを自前で用意するという選択肢もあり得るということだ。テレビ放送用に制作された番組をブロードバンドに乗せようとするから苦労するのであって、最初からブロードバンド用にソフトを制作するようにすれば、著作権処理などに煩わされることもなくなる。

　もともと、企業規模という面で比べれば、大手通信事業者は地上波放送局をはるかにしのぐだけのものがある。番組制作に投資できる予算も、地上波局より多く持っていても不思議ではない。

　通信事業者からすれば、完成されたソフトを購入してくるのならばともかく、自らが番組制作に投資することなど思いも寄らないという先入観があるだろう。しかし、実際の番組制作は行えないにしても、制作プロダクションに資金を拠出することにより、地上波で放送しているのと同質の作品を手に入れることは可能である。

　地上波局からだけでなく、ペイテレビや大手通信事業者からの資金も入ってくるようになれば、制作プロダクション側の財務状況も大いに改善することとなり、地上波局とのアンバランスな取引関係を是正していくための効果も期待できる。

　財務状況が改善していけば、制作プロダクションとしても新たな人材を確保しやすくなる。新人が続々と入ってくることになれば、素晴らしい才能を秘めた人材に出会う可能性も高まるだろう。若者にとって夢のある職場となることが、制作プロダクションの疲弊を救う最大の活性剤となるに違いない。

　地上波局からすれば、制作プロダクションがペイテレビや通信事業者向けに番組を制作することは、ライバル事業者に手を貸すように映るかもしれないが、それは大間違いというものである。

　むしろ、このまま自らの手で制作プロダクションを疲弊させていくことにより、結果として日本の放送文化の衰退を招くくらいなら、他者からの資金が流れてくることによって制作プロダクションが力を取り戻していくことは、地上波局にとっても良いことだと考えるべきだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、（株）オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」（日刊工業新聞社）、「放送業界大再編」（日刊工業新聞社）、「どうなる業界再編！放送vs通信vs電力」（日経BP社）、「メディアの黙示録」（角川書店）。