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「録画ネット裁判」で明らかになったタブー小寺信良(2/3 ページ)

» 2005年12月05日 09時50分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 この裁判により、海外居住の日本人が、インターネット経由で日本の番組を録画・視聴するという行為に対して、業者が介在することはできないということが明らかになった。

 個人的な印象を言わせて貰えば、現行法に照らし合わせて考えた場合、知財高裁の判断は妥当であろうと思わざるを得ない。テレビ番組の録画という行為を、業者が介在して組織的に行なうというのは、技術的には可能でも、やはり法的には難しい。

 もし今回の判決に違和感を感じる部分があるとしたら、それはおそらく「録画=複製」という考え方が馴染まないからであろう。普段我々がテレビを最初に録画する行為は、「複製」というイメージがない。録画したものをDVDほかのメディアにダビングするときに、初めて「複製」という行為を意識する。

 この最初の録画時の意識のズレは、すでに我々の中で録画するという行為は、時間軸を変換する「タイムシフト」という考え方が主流であることに原因があるようだ。しかし法的には、初動である録画も複製に当たるということで、著作権法が持ち出されているわけである。

違法と適法の分かれ目

 では、どういう条件であれば法的にOKと言えるのか。現時点でも、海外から日本の番組が見られるという製品はいくつかある。録画ネット裁判の中でも言及されているが、シャープの「ガリレオ」や、ソニーの「ロケーションフリー」といった製品は、チューナー部を持つ「親機」を日本に置いておけば、海外からでもアクセスして視聴することができる。

 これら既存の製品と「録画ネット」との違いを考えると、これらの製品自体は量産品であり、個人で誰でも購入できる。あきらかに個人所有の機器と言えるだろう。

 そして想定される設置場所は、自宅だ。自宅に設置した親機から送信される番組を、海外で受けて視聴するという点に関しては、今回の判例を元に考えても違法性はないように思える。

 短期の出張程度であればこれで問題はないが、海外に数年間赴任することになった場合はどうだろう。一家で海外赴任経験のある友人に話を聞いたところ、日本で住んでいたのが借家であった場合は賃貸契約を解約し、日本でしか使わない家具類はトランクルームに預けて赴任、住んでいたのが持ち家(あるいは購入したマンション)の場合は、不動産屋に依頼して賃貸に出すケースが多いという。

 つまり長期の海外赴任となると、いわゆる「じぶんち」がない状態になるわけである。これではチューナーを置く場所がない。実際には親が住む実家や友人宅に親機を置かせて貰う、という例もあるようだが、著作権法を厳密に解釈すると、ややグレーな感じがする。

 だが海外赴任者は、なにも好き好んでヤバいことをしたいわけではない。親や友人宅にそういう親機を置かせて貰うのがマズイのであれば、ちゃんとお金を払って正規にそういうことをやってくれる業者はないのか、という話になる。「録画ネット」登場のそもそもは、そういうニーズからだったのである。心情的には、理解できるところだ。

放送する権利、見る権利

 だが放送局側は、「録画ネット」という弱小サービスを全力で潰しにかかった。その理由の根底にあるのは著作権法以前に、「日本の番組を海外で見る」ということ自体が問題だったからである。

 これは一番最初に提出された「サービス停止を求める仮処分の申し立て」の中に、すでに含まれている。13ページ中段からの文章だが、要するにオリンピックみたいな国際的なイベントは、その放送を行なう契約条件として、必ず放送地域を日本国内に限定しなければならないからである。

 もしこれに違反した場合には、そらぁ相手はオリンピックだ、日本の放送局は莫大な違約金を支払うハメになる。アテネオリンピックは、2004年8月13日に開幕した。だから2004年7月末というタイミングで、本案決議を待たず即効性のある仮処分申請であったわけだ。

 つまり今回の裁判は、結果として著作権法上で決着したが、根底には放映権といった問題まで含んでいたのである。以前別のコラムでも書いたが、いかに著作権法が、いろんな問題を棚上げしつつ敵を粉砕するための有効なツールであるかを如実に物語る。

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