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H.264の画質向上がもたらすもの――PHL次世代DVDへの挑戦(1/3 ページ)

» 2006年01月25日 15時19分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 一昨年昨年に引き続き、「2006 International CES」開催直後のタイミングでハリウッドの映像ビジネスの現場を取材した。

 もっとも、これまではHD DVDとBlu-ray Disc、いずれの規格をサポートするのか、あるいはなぜ一方の規格を支持するのかといったことがテーマだったが、すでに各社とも方針が固まり、さらに統一規格も立ち消えとなっている。

 そうした中で、コンテンツ作りに各社がどのように取り組んでいるのかが、今回の取材テーマだ。Universalを除くメジャーな映画供給会社を取材したが、初回となる今回は映画会社ではなく松下電器のパナソニックハリウッド研究所(PHL)の取り組みから連載を始めたい。

 PHLについては昨年一昨年にも記事を掲載しているが、今年は彼らが次世代光ディスク向けに開発した高画質エンコーダーの実力と、高画質エンコーダーが生まれてきた背景について話を聞いた。

CESでナンバーワンの画質を誇ったPHLの圧縮映像

 International CESのリポートでは、松下電器がフルHDソースとして流していた映像が、非常に高画質であることを伝えた。言葉だけで“高画質”というのは簡単だが、各社とも画質の低いソースでデモなど行わない。

 CESには映像制作や映像機器に関わるプロも数多く来場する。どのブースでも少しでも印象が良くなるよう、アラが見えないよう細心の注意を払って映像を制作するものだ。とはいえ、プロ向け機材のデモを行うのではないから、フルHDのベースバンド映像を流すわけではない。たとえばHD DVDならHD DVDで実現できる、BDならBDで実現できる範囲内で可能な限りの高画質ソースを作って持ち込むのだ。

 松下電器が持ち込んだのは、PHL主任技師の柏木吉一郎氏が中心になって開発したH.264 High-Profileエンコーダーを用いて圧縮した20Mbpsの映像だった。

photo PHL主任技師の柏木吉一郎氏

 一般的なノイズが少ないのはもちろん、圧縮による歪みやエッジがチリチリと動いて見えるノイズも見えず、精細感が高く、それでいてリンギングがなくスッキリと細めの輪郭。ダイナミックレンジも高く、暗部階調のS/N感や白ピークの立ち上がりが抜群にいい。

 PHLでは、縦方向13.5フィートという巨大スクリーンで、ベースバンド映像と圧縮映像を左右対象に表示させ比較させてもらったが、かろうじて“違う映像”であることを認識できる程度の差しかない。

photo

 柏木氏の開発したエンコーダーは、これまでにも16Mbpsの「デイ・アフター・トゥモロー」、8M/12M/16Mbpsでエンコードされた「エリン・ブロコビッチ」など、多数のソースを同様の形態で見せてもらっているが、今回見せてもらった20Mbpsの各種トレーラー(予告編)映像は、これまでで最高のデキだ。

 ビットレートは高めだが、トレーラーはシーンチェンジが頻繁に発生するため、通常のシーンを16Mbpsでエンコードした場合よりもビットレート的には同等、あるいは厳しいぐらいだという。条件的には厳しい中で高画質を得られているのは、PHL開発のH.264エンコーダーの優秀性を示している。

 それと同時に改めて考えさせるのが、デジタル映像ソフトにおけるエンコード品質の重要性である。かつてDVDが登場した当時は、1層ROMが中心でエンコードのノウハウも少なく、実に見るも無惨な画質のソフトも少なくなかった。光ディスクは“容れ物”でしかない。どんなに優秀なスペックを誇っても、その中に収録するデータ品質が高くなければ“次世代”などといえる品質ではなくなってしまう。

“HD DVD対BD”を超えてピュアに高画質を求めた松下

 その柏木氏、今でこそ高品質H.264エンコーダーの開発者として紹介しているが、2年前のインタビューでは「MPEG-2の方が高画質」と発言している。実際、当時のH.264では高画質は望めなかったのだ。当時、何度か筆者自身もH.264のHD映像を見たことがあったが、いずれも輪郭が甘かったり、あるいはディテールが削ぎ落とされていたりで、MPEG-2の方が好ましいと感じていた。

 しかし、原理的には“あり得ない”話だった。

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