コラム
» 2006年04月10日 11時00分 UPDATE

小寺信良:「VODでハイビジョン」がもたらす衝撃 (1/3)

利便性/付加価値の高いハイビジョンコンテンツサービスとして、「オンデマンドTV」による世界初のハイビジョンVODが6月からスタートする。その特徴と“VODでハイビジョン”がもたらす衝撃、そして課題を探ってみた。

[小寺信良,ITmedia]

 まだ次世代DVDの統一問題が華やかりし頃、筆者は規格の統一問題が長期化するのはお互いのためにならない、という持論を展開していた。その理由としては、事態が停滞するうちに、もっと利便性が高く付加価値の高いハイビジョンコンテンツサービスが始まれば、消費者はそちらのほうに逃げるだろう、と考えたからである。

 これはオーディオにおけるDVD AudioとSACD、そしてiTunesミュージックストアのような関係に似ている。メディア規格双方とも高品質なのは認めるが、もはや日本においても値段や利便性、品揃えを度外視して、高品質だけでモノが飛ぶように売れるような時代ではないのである。

 いい音で、綺麗な絵で、といった抽象的な目標をがむしゃらに追い求めるのは、貧しい時代の話である。貧しいとは、消費者が貧乏という事ではなく、実現できる品質が低かった時代という意味だ。

 昔のラジオもテレビも、今に比べれば表現できる質は今より低く、とても「リアルな」とは言えなかった。だから誰でも、もっといい音で、もっと綺麗な絵で、といった漠然とした目標であっても、理想像を描くことができた。

 だが今はそこそこの機材でも、ある程度のレベルまでリアルで生々しい表現が可能になっている。これで十分、それ以上の品質が想像できない、という人たちが出現しても、おかしくない。つまり現状を超えてさらなる「良さがわかる」という人たちの人数が、昔に比べれば激減しているのである。これはあまり世の中の牽引力にはならない。

 あるモノ系雑誌に面白い記事が載っていた。デジカメの700万画素も500万画素も、L判サイズに印刷したら結果は変わらない、というのである。これなどはまさにその典型で、確かに見る人のキャパシティが「L判サイズ」しかなければ、700万画素のデジタル一眼レフよりも、コストパフォーマンスやハンドリングの良さで勝る500万画素コンパクトデジカメのほうが全然いい、という結果にもなるだろう。

世界初ハイビジョンVOD

 HD DVDのほうは3月31日にローンチしたわけだが、冒頭で述べた「別のサービス」も今年6月にローンチする。VOD事業者の「オンデマンドTV」が、ハイビジョン 5.1chサラウンドによるサービスを開始するのである。

 米国でも6月あたりにハイビジョンVODのサービスインを目指している事業体があるようだが、まだ公式なリリースは出ていないようだ。このまま順当にオンデマンドTVが6月にサービスインすれば、これが世界初のハイビジョンによるVODということになる。

 もともとハイビジョンによるVODは、筆者の頭の中には構想として早くから存在した。というのも、現在の地上デジタル放送/BSデジタル放送の映像品質に、限界が見えていたからである。各テレビメーカーの高画質競争も、地デジ品質程度のソースでは意味がない。

 このデジタル放送画質を超えるものの可能性としては、もちろん次世代DVDがあるのは見えていたが、例の規格統一〜分裂騒動により、事業が停滞していた。そこでもう一つの可能性として、筆者はVODを考えていたのである。

 IPによる伝送であれば、ある意味放送のようなリアルタイム伝送を保証しなくても、高ビットレートの映像が伝送できるのではないか。つまり、蓄積型のVODなら、地デジ品質を超えるハイビジョンコンテンツが可能ではないか、と考えたのである。

 オンデマンドTVが6月から開始するサービスは、筆者の構想とは違う方法で実現した。H.264を使ってハイビジョンコンテンツを高圧縮し、従来どおりのリアルタイム伝送を行なうというものである。ただ、実際にサービスインすると聞いて一番驚いたのも筆者である。

 実は2005年8月に、一度オンデマンドTVに取材したことがある。それ以降不定期にお会いして、「情報交換」と称する飲み会などさせていただいているのだが、昨年9月末にお会いしたときには、筆者のハイビジョンVOD構想に関して否定的だったからだ。

 広報部と経営企画部課長を兼任する岳崎 将義氏は、事実上オンデマンドTVの戦略を牽引する人物だ。コンテンツの契約交渉などにも当たる立場から、「おそらくハイビジョンコンテンツは、探してもそれほど存在しないのではないか」と見ていた。

 同社技術部課長の谷口 靖幸氏は、オンデマンドTV技術部門のリーダーである。彼もその席で、「IPv6網を使ったハイビジョン伝送は、技術的には興味ある」としながらも、「サービスインが可能かは別問題」と漏らしていた。

 そのとき筆者は、「どうせそのうち総務省がIP放送だの言ってくるんだから、先に実験だけでもしておくべきなのだぁ!」とカニの足を振り回しながら力説した……ような気がする。いや飲んだのがカニ料理の店だったのである。

 谷口氏はそのとき、「そうですねぇ実験だけでもやっときますかぁ」とカニの足をくわえながら快活に答えた……ような気がする。すまん酔っぱらっていたので良く覚えていない。

 それがきっかけでスタートしたと考えれば、たった半年で回線実験をこなし、コンテンツをかき集め、STBを開発したことになる。おそるべき瞬発力と言わざるを得ない。

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