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行動原理から見る購買層と購買力小寺信良(2/3 ページ)

» 2007年01月09日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

お金を出すのはどこの世代か

 今、若年世代が作り上げる流行や楽しみは、定額制料金の上に存在している。それに対していかに元を取るか、あるいは定額料金を払ったという意識はナシにして、いかにタダで遊ぶかに集中していると言ってもいい。WinMX、Winny、YouTubeといった流行を並べてみて、著作権侵害はゆゆしき問題ですな、というのは簡単だ。だがそこに多くの人、特に日本の若い人が逃げ込んだ理由は、誰か考えただろうか。

 これは現在の若年世代が作る流行は今後も、お金の流れを作らない傾向が続くだろうということを示している。物品販売や物流で生きていたハードウェア産業は、これではたまらない。だから今の若年世代をターゲットにした商品は、安価で使い捨てられるようなものが中心になっていく。

 一方、付加価値の高い(つまりは高価な)ものは、物品に対してお金を出すという習慣を持ち、かつ収入にも比較的余裕がある40代がターゲットとなるわけである。実際のところ、過去に日本企業を支えてきたのは、今40代の人が若かった頃の購買力である。手にしたお金をことごとく物欲に昇華させてきた世代であり、いい音とは金がかかると知っている世代。高級ヘッドフォンとは、こういう世代へ向けて作られている商品なのである。

 メーカーで製品作りのキーとなる人々の年齢は、だいたい30代から40代だろう。過去流行するモノというのは、若い人をターゲットにしてきた。つまりこれまでの売れるモノ作りとは、自分たちよりも若い人に向けて作ってきたのである。

ここ(総務省統計局 「人口推計年報―平成16年10月1日現在推計人口)に、2004年調査の日本の人口ピラミッドがある。およそ2年前の調査なので、今年はこの図からグラフが3つ分だけ上にずれた状態だと思えばいいだろう。これを見れば、いわゆる若い人、10代後半から20代半ばというのが、いかに数として少ないかということが実感としてわかる。ましてや勝ち組・負け組と言われる格差社会の一番厳しい部分にさらされるのもこの年代であることを考えると、物品の購買層として期待するのは、かなり厳しいことになる。

 そして今年からいよいよ第一次ベビーブーム、いわゆる団塊の世代と言われた最初の人たちが、60歳で定年を迎えることになる。これによって会社組織などの社会構造が大きく変化していくということは、経済誌に限らずよく言われることだが、その一方で購買層としての期待度は非常に高まっている。退職金で高級品も売れるのではないか、という期待だ。

 それにはその人達に合わせたモノ作りが必要になってくる。つまり、これからは作り先の主軸を、自分たちよりも上の年齢層に向けなければならない時代がやってくるのである。そしてちょうど作り手の主力が、そろそろ第二次ベビーブーム(昭和46年〜49年生まれ)の人たちに移ってくるタイミングでもある。つまりは自分たちの親が興味を持つもの、喜ぶもの、そして買ってくれるものを作っていくというサイクルになっていくと考えられる。

 ただ、この世代はちょうど就職時期にバブル経済が崩壊して、就職氷河期と言われた世代でもある。大きな企業でも求人しなかったりと、ちょうど技術やノウハウの継承者が手薄なところにさしかかっている。この影響をいかに埋められるか。せっかく回復傾向にある景気を停滞させないためにも、この新しい購買層への商品開発に注力する必要はある。

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