昨年、ソニーは次世代光ディスクの競争を有利に進めるため、北米市場でかなり積極的なBlu-ray Discの拡販を行った。例えば「PS3でBDソフトを見るユーザーが想定していたよりも少ない」との声が出れば、PS3とソフトのバンドルキャンペーンを強化したり、PS3でBDを見ることができることを告知する広告を出した。
加えて499ドルで発売した「BDP-S300」を100ドル値下げし、さらにクリスマスシーズンには299ドルまで下げ、低価格プレーヤーで対抗する東芝のHD DVDに食らいつき、パッケージソフトの売上はHDパッケージ全体の2/3をBDが占めた。
今年1月5日にあったワーナーの発表(→発表記事、インタビュー記事)により、大きくBD側に情勢は振れたものの、昨年のソニーは数字の上でHD DVDに負けないため、あらゆる努力を惜しまなかったという印象がある。
ソニーエレクトロニクスでBDプレーヤーのマーケティングと商品企画を担当する長尾和芳氏に、昨年を振り返ってもらい、これからの進む方向を北米市場のマーケティング担当者の立場からの話を伺った。
長尾氏は、「一昨年末、プレーヤーの価格は999ドルでした。しかしその後、ソフトウェアの大量バンドルをはじめとするHD DVDの大規模なプロモーションが始まり、ソニーもそれに追従せざるを得なくなりました。しかし、そこに追従すると今度は極端な値下げとさらなるバンドル合戦が繰り返され、HD DVDのパラマウント独占、それに旧型HD DVDプレーヤーの98ドルでの販売などもあって、HD DVDプレーヤーが売れていったというのが、昨年の動きでした」と、マーケティング的には非常に厳しかった昨年の状況を振り返る。
特にウォルマートで11月初旬から始まった98ドルキャンペーンは、ソニーに大きな衝撃を与えたようだ。なにしろ1台のHD DVDプレーヤーに最大7本のソフトウェアが付属する。1本あたりを約20ドルと換算すると140ドルのソフトが98ドルのプレーヤーに付いてくる計算なのだ。これならば、DVDプレーヤーを買うよりもHD DVDプレーヤーを買った方が得であることは誰が考えても分かる。
しかし、ソニーを勇気づける数字もあった。それは「低価格攻勢でHD DVDプレーヤーが売れ始めても、BDとHD DVDのソフトウェア販売比率には変化がなかった」(長尾氏)からだ。つまり、HDのソフトが欲しい、HDで映画を見たいという人ではなく、単に安価でソフトが無料でもらえる高級DVDプレーヤーとしてHD DVDプレーヤーを買っているのではないか? と考えたのだ。
「HD DVD、BDのプレーヤーは、高解像度になることで、より美しい映像と迫力のある音を楽しんでもらえる製品ですが、きちんと顧客に訴求し、説明しなければ理解してもらいにくい面もあります。単に安売りで流すだけでは、その説明をせずに販売することになります。理解せずに購入したユーザーは、若干高めに設定されているHDソフトを購入しようとしません。そうしたことが、昨年の目玉タイトルだったHD DVDソフトの『トランスフォーマー』発売週も逆転されなかった(販売比率:52対48)理由だと思います」と長尾氏。
ワーナーの発表を受け、BDへと向かう流れは決定的になっているが、激しい戦いを経てきただけに、簡単に安心はできないようだ。冒頭でも述べたように、ソニーも決して無傷というわけではない。499ドルで発売したプレーヤーが399ドル。2週間限定とはいえ299ドルで販売したのだから、ある程度の出血は覚悟していたはずだ。
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