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ソニーのBDプレーヤー「BDP-S5000ES」で観る「マイ・ブルーベリー・ナイツ」〜アメリカの風景山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.23(2/2 ページ)

» 2008年09月17日 12時24分 公開
[山本浩司,ITmedia]
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 ピクチャーコントローラーは、色の境界情報から色にじみのない映像信号を作り出すソニー独自のクロマアップサンプリング手法。スーパービットマッピングは、音楽CDでお馴染みの善玉ノイズを足してビット拡張を図る手法を映像信号処理に応用したもの。つまり、人間の目ではノイズとして認識できない高周波領域の量子化誤差を足し込むことによって、見た目の階調性を向上させるわけである。

 また、移動体通信の基地局向けに開発された高精度なPLL回路を積んだLSIを初採用し、従来機に比べて画質・音質の阻害要因となるHDMI出力のジッター(時間軸の揺らぎ)値を半減させるなど、物量投入は半端ではない(HDMI出力は1系統)。

 本機は、アナログビデオ回路の高画質化にも意が払われており、アナログデバイセズの14ビットD/Aコンバーターがおごられている(サンプリング周波数は、HD信号入力時はその4倍となる297MHz、SD時は16倍となる216MHz)。これは、今なお3管式プロジェクターで頑張っておられるベテランAVファンの方も注目すべきフィーチャーといえるだろう。

 高音質に対する取り組みもじつにオーソドックスだ。梁(はり)を渡して剛性を上げたFB(フレームビーム)シャーシを採用、ドライブメカを厚めの板金に取り付けてシャーシに載せ、その振動を伝えにくくするような工夫が凝らされている。また、アナログオーディオ回路専用にRコアトランスを採用して瞬時電力供給能力の向上を図ったり、オーディオDACの直前にクロックコンディショナーを配置してマスタークロックのジッター低減に取り組むなど、正攻法で真面目なアプローチが採られている。出力部には、バーブラウン製2チャンネルDACの「PCM1796」が5基使われており、7.1チャンネル出力のほかに2チャンネル優先出力を設けているのも興味深い。オーディオ信号処理回路のパーツレイアウトもじつに美しく、一目でいい音がしそうなオーディオ基板である。

photo 「マイ・ブルーベリー・ナイツ」公式サイト。国内では9月12日にDVDが発売された。価格は3990円(スペシャル・エディション)。発売元はアスミック、販売元は角川エンタテインメント

 本機で体験するBD ROMの画質だが、まず見通しのよい、安定した高精細映像に感銘を受けた。画素の1つ1つが意志を持って精密に構成され、これまで体験したことのないような、晴れやかなでヌケのよい画質が達成されている。とくに感銘を受けたのは、ウォン・カーウァイ監督がアメリカで撮った映画「マイ・ブルーベリー・ナイツ」であった。

 「マイ・ブルーベリー・ナイツ」は、ベストセラー・アルバムを量産しているアメリカの女性シンガー・ソングライター、ノラ・ジョーンズを主役に据え、ジュード・ロウやナタリー・ポートマンといった芸達者な若手俳優を脇に配して、夢のようなはかなげな人間/恋愛模様を描いた作品である。香港映画界を代表するウォン・カーウァイ監督、アメリカ人スタッフ、キャストを使いこなしながら、ハイスピード撮影やトリッキーなカメラワークで、いつものようにスタイリッシュな映像でキメている。

 舞台は大きくニューヨーク、メンフィス、ネバダの3カ所に分かれるが、それぞれテーマカラーを決め、じつに鮮やかな映像美を見せてくれる。ノラの演技も素人芸というのがはばかれるほど、真に迫ったものだ。女優としてよりもミュージシャンとしての彼女のほうがはるかに魅力があるとぼくは思うが、恋愛に破れ、旅に出る若い女性の複雑なメンタリティをきめ細かく表現していて、感心させられた。

 BDP-S5000ESは、随所で登場するノラのミディアム/クローズアップショットをじつにスムーズに、なめらかに描く。肌のまとわりつく微小なノイズが抑えられ、とても見通しがよい。本機のHDリアリティ・エンハンサーの効能を実感する部分だ。

 ネバダをドライブするシーンでは、広大な砂漠の表現に本機のスーパービットマッピング処理の威力を実感した。じつに階調表現が豊かで、漠然とした砂漠のとらえどころのなさがリアルに実感できるのである。

 本作の音声はドルビーTrue HD 5.1ch。メンフィスが舞台となるシークエンスでは、オーティス・レディングの名曲「トライ・ア・リトル・テンダネス」がフィーチャーされるが、愛に疲れた男女を優しく包み込むその歌がたいへん素晴らしい。BDP-S5000ESは肩の力の抜けた開放感のある伸びやかなサウンドで、オーティスの類稀な表現力、ひりひりとしたソウル・フィーリングを巧みに描き出す。これは、レコーダーではちょっと味わうことのできない領域の表現力だろう。

 BD ROMには、まだわれわれが知らない奥深い魅力があると思わせるソニーBDP-S5000ES。今年はパイオニアからもBDプレーヤーの高級機が発売される予定になっているし、この秋は、BD再生という趣味の世界が幅と奥行きを持つことになるのは、間違いない。

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