例えば、ここを見てください。後部艦橋に細かい縦棒がいくつか入っていますが、横方向にも1本だけありますよね。これは、海底調査が行われるまでは“ない”とされていたモノです。しかし実際に調査すると、補強用のリブが1本あったんです。
また、船体の横にキズのように見えるのは、舷外電路(げんがいでんろ)の留め金なのですが、海底調査によって、それまで考えられていたよりもかなり高い密度で付いていることが分かりました。もちろん700分の1サイズですべてを再現するとおかしくなるので、スケールに応じてある程度間引いて再現しています。
——きれいなフォルムに見せるため、デフォルメを施す模型もあると聞きますが、今回はまったくないと思っていいのでしょうか。
デフォルメについては意見が分かれるところです。中にはデフォルメなど必要ないという立場の方もいますし、メーカーも同様です。
よく言われるのは、乗用車のプラモデル。模型を上から見ると、実際より長く感じます。でも本物の乗用車は上からみることはめったになくて、前から見る目線が多い。すると長さは隠される方向になるので、少し“寸詰まり”で顔(フロント部)がよく見える感じでわれわれにインプットされています。
このため、プラモデルにする際には実際より短くして、われわれの頭の中にあるイメージに合わせるメーカーもありますし、逆に実際のスケールに忠実にするメーカーもあります。メーカーの担当者の考え方が製品に反映される部分だといえますね。
大和の模型についても同様です。先に発売されている他メーカーのプラモデルでは、実際よりも艦橋などの上部構造物が2ミリほど後ろに付けられていることがありました。というのも、われわれがよく目にする写真(真横よりちょっと前から見た写真)が、レンズのひずみで前が長く見えていたので、そのイメージに近づけるため、上部構造物をわざと後ろにずらしていたんですね。
今回の戦艦大和では、バランスについては忠実に再現する立場をとりました。もう大和の全体の図面は残っていませんが、戦後復興された三菱重工長崎造船所でトレースされた図面があったので、それを再現しています。原図ではありませんが、現在一般人が入手できる資料としては、もっとも信頼できる図面だと思います。
こちらは、数年前に大和ミュージアムの方が米国の公文書館で発掘してきた写真です。大和が沖縄に向けて出撃する5時間前の写真といわれていますが、バランスはぴったり同じ。横にこの船(給油船)を置くと、そっくりそのまま再現できますよ。
——外観だけではなく、動きも忠実に再現しているそうですね
例えば、大和は最高速で28.46ノットを出したと記録に残っていますので、それを700分の1で割ったスピードを模型の最高速度にしました。コントローラでは操作を3段階にして、最もスピードを出したときにスケールスピードでちょうど28.46ノットになります。
旋回時には、おしりをふるように動き、そのときの遠心力で上部が外側に約3度傾くといった部分も再現しています。また、艦船は停止操作をしてもすぐには止まらず、慣性によってしばらく動き続けるものです。そこで戦艦大和では操作したあとに数秒のタイムラグが生じるようにしました。コントローラを操作しながら、6万トンという巨大な戦艦の動きを感じることができます。
実際の操作性は悪くなるので、どのように評価されるか心配していたのですが、これまでのイベントなどではおおむね好評でしたね。
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