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「イヤフォン組み立て教室」に“刻の涙”を見た(1/2 ページ)

» 2012年06月26日 20時40分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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 スピーカーに真空管アンプ、オーディオファンの間にも昔から“自作”という文化がある。もともとカスタマイズはオーディオの魅力の1つであり、自作文化も安く機材を手に入れたいというより、自分好みの機器や音を手にできるという点が魅力だろう。もちろん、その過程である工作も楽しみの1つだが、さすがに「イヤフォンの自作」というのは、細かすぎて聞いたことがなかった……先週までは。東京・秋葉原で開催された「イヤフォン組み立て教室」に誘われたので、行ってきた。

机の上にはパーツ一式とマニュアル、ハンダごて(左)。講師を務めたのは、ファイナルオーディオデザインの細田満氏(右)

 イヤフォン自作教室を主催したのは、ファイナルオーディオデザインと、大阪・日本橋と秋葉原に2店舗を構えるイヤフォン/ヘッドフォン専門店「e☆イヤホン」。この数年で急に知名度を上げたファイナルだが、そのルーツは1974年創業の高級オーディオ機器メーカー。2007年にコネクターのOEM/ODMで世界第2位のシェアを持つ日本モレックスと協業するにあたり、イヤフォンやスピーカーの開発/生産請負事業を始めたという。ファイナルオーディオデザインのブランドでイヤフォンの販売を始めたのは2009年からだ。

 今回のイベントは、「イヤフォンを積極的に楽しんでほしい」という主旨で企画されたもの。大阪に続いて2回目の開催で、今回は一般参加者25名とメディア関係者5名が参加した。参加費は1人5000円となっているが、1万数千円相当のイヤフォンを製作できるとあって、かなり“お得”なイベントなのだ。

 逆にいえば、主催する側は赤字覚悟。そんな事情もあり、残念ながら次回以降のスケジュールは決まっていないという。「ですから、プロモーションに役立てて、少しでも(投資を)取り戻そうと、今回はメディアの方々をお呼びしました」とファイナルの細尾満氏。正直すぎるコメントに会場は沸いたが、1つ重要なことを忘れている。今回のイベントが成功すればするほど、招かれたメディアは“読者のため”にイベントの継続を働きかけることになるのだから。

分割できる金属筐体

 さて、そんなファイナルが用意してくれたイヤフォン組み立てキットは、前後に分割できる金属製ハウジングを使用したカナル型。この金属ハウジングは、同社がODM先とやり取りする際に使用する「標準筐体(きょうたい)」と呼ばれるもので、一般的な製品に比べると少々大きめに作られている。この筐体を使い、異なるチューニングを施したサンプルをたくさん作ってクライアントに提案するのだという。

パーツ一覧。細かい作業用に、つまようじや綿棒まで用意されていた(左)。標準筐体のリアボディー。ファイナルのロゴ入りだ(右)

 小さなビニール袋に分けられたパーツは、イヤフォンの片方でざっと10種。なじみ深いイヤーピースやケーブルのほか、ダストフィルターやスポンジ、ドライバーを圧着させるスポンジリングなど、イヤフォン好きでも見かけないものばかりだ。とにかく部材が細かいものの、ドライバーは完成部材だし、ケーブルの先は既にむかれているので、難易度はさほど高くない……と、最初は思った。

分解図を見るとパーツはさほど多くない(左)。が、実際のパーツを見るとやはり細かい。ドライバーは、約8.4ミリ径のダイナミック型で、実はファイナル製品ではまだ使用していない(右)

 ついに組み立てスタート。まずはブッシュと後部ハウジングにケーブルを通し、ケーブルの被覆部を2ミリほど残して結び目を作る。この結び目は、ケーブルが引っ張られても抜けないよう、ストッパーになるわけだ。かなり細かい作業だが、ここはガンプラで鍛えた指先でクリアする。

ブッシュと後部ハウジングにケーブルを通し、ケーブルの被覆部を2ミリほど残して結び目を作る

 次はハンダ付け。「ハンダ付けは音の良しあしも左右する。失敗するとうまくならないこともある」などと脅されつつ、ハンダごてを温める。私事で恐縮だが、子どもの頃に初めて作ったラジオキットはハンダ付けに失敗して全く音が出ず、その後は「電子ブロック」に走ったトラウマがある。

「神の手を持つエンジニア」こと日本モレックスの熊瀧雅典氏。会場では後光が差していたような気がする

 幸い、今回は講師(スタッフ)の中に「神の手を持つエンジニア」と称されるハンダ付けのプロがいた。参加者がどうにもならない状況に陥ったとき、救いの手をさしのべてくれる神様のような人。そんなわけで、メディアの立場を利用した巧妙な抜け道を思いついた。

 「先生! 正しいハンダ付けを“撮影”したいので、これを使ってお手本を見せてください」。

 しかし、先に声を上げたのは、隣に座っていた「BARKS」の烏○編集長だった。やられた。

そして始まるハンダ付け撮影会。「こんなに注目されながらハンダ付けするのは初めてです」(by 神の手を持つエンジニア)

 仕方がないので、自分でハンダ付け(当たり前)。8ミリのユニットを裏返すと、分かりやすいようにマジックで赤い印が付けられていた。この下がプラス極だ。さらにプラス極とマイナス極には、最初から適量のハンダが付いているため、恐らくハンダ付けの難易度としては低いほうだと思う。しかし、久しぶりにハンダごてを手にした人が多いのか、会場は一様に緊張した面持ち。余裕のある表情をしているのは、隣の某編集長だけだ。

プラス極には、マジックで赤い印が付けられている

 細いケーブルのラインをあて、上からハンダ小手をゆっくりと、しかし確実にあてて目的の部分のハンダを溶かす。細いラインがハンダに埋まったらコテを離し、しばし冷やせば完了。これを4回繰り返し、すべてのラインをハンダ付けしたら、手持ちのiPhoneにつないで音が出ることを確認した。これは、うれしい瞬間だ。ドライバーユニットにスポンジリングを貼り、前後に分かれたボディーを組み合わせると、途端にイヤフォンっぽくなる。

ハンダ付け終了。ドライバーユニットにスポンジリングを貼り、前後に分かれたボディーを組み合わせると、途端にイヤフォンらしくなる。かなりうれしい

 次は音導管にスポンジを詰め、ダストフィルターを接着するのだが、この過程は音を左右する「最難関」だという。「ハンダ付けより手強い作業があるなんて聞いてない」などとブツブツいいながら、筐体を組み立てているとき、あることに気付いて作業の手が止まった。

 顔から血の気がひいていく感覚を認識できた。にわかには信じられない、大きなミスをしてしまったようだ。

クイズ:一体、何をミスしたのでしょうか?


ヒント:ここまでの写真にばっちり写っています



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