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スーパーハイビジョンは2016年に間に合うのか? NHK技研公開麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/3 ページ)

» 2013年05月30日 21時18分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

麻倉氏:偏波MIMO-超多値OFDM伝送実験装置を用い、地上デジタル放送の1ch分となる帯域幅6MHzでスーパーハイビジョンを伝送する技術も展示していました。こちらも伝送路の問題を1つクリアする重要な技術です。ただ、展示に使っていた映像がAVC(H.264)の91Mbpsだったため、画質的にはかなり落ちていました。やはりHEVCが必要だと実感します。

偏波MIMO-超多値OFDM伝送実験装置と単一周波数網(STN)で隣接する送信局の信号を時空間符号の処理を行い、SFNの劣化を抑える技術デモ(左)。12GHz帯衛星放送によるSHV伝送技術(右)

麻倉氏:HEVCが力を発揮するのは8K伝送だけではありません。4Kでも、例えば韓国の実験放送で使われていますし、日本で来年スタートする見込みのスカパー!JSATの実験放送で、まだはっきりとはしていませんが、HEVCを使う意向のようです。

 現行のハイビジョン(2K)でも効率の高い符号化方式は重要です。圧縮率が倍になりますから、とくにブロードバンド環境の整っていない米国などの国でもHD伝送が容易になるでしょう。このように、幅広い用途のある次世代コーデックとして注目されているHEVCがハードウェアエンコードできるようになったことは、非常に大きな意味を持っています。

SHVの画質向上を示す「広色域&120Hz」

麻倉氏:もう1つのトピックは、「広色域スーパーハイビジョンシステム」の展示があったことです。これまで、技研公開では画素数やフレームレートに関する展示こそありましたが、色域を広げるとはいっていませんでした。2年ほど前にHDで同様の展示をしていましたが、SHVでは初めてです。

「広色域スーパーハイビジョンシステム」の展示

麻倉氏:「UHDTV」(=海外におけるSHVの規格、呼び方)のITU-R勧告「BT.2020」では、4K/8Kの共通フレームレートとして120Hz(120コマ/秒)を盛り込んだほか、10/12bit階調、順次走査、そして大幅に拡大した色域も含まれています。図を見ると明らかですが、従来のHD(BT.709)より緑側が格段に広くなっています。ちなみに、「2020年までの試験放送を目指していたからBT.2020なのか?」と係員に尋ねてみたのですが、これは偶然のようですね。単なる順番だそうです。

BT.2020の概要(左)と色域(右)。現行HDより大幅に広くなる

麻倉氏:今回の展示では、3センサーカメラで分光を司るプリズムを変えて、より広色域にしています。出てくる色は彩度が高く、赤や青系の色が現在のHDとは違います。SHVは大画面がメインになりますが、従来の放送では是正しきれなかったビット深度や色表現まで踏み込んだシステムということがよく分かりました。

広がった色域を再現するため、展示ではRGBのレーザー光源を搭載したプロジェクターで上映している。既存の光源では難しいという

横で撮影している映像を、現行色域(左)と広色域(右)を切替ながら表示してみせるデモ。切り替わった瞬間、現行ハイビジョンの色域(BT.709)が、文字通り“色あせて”見える

麻倉氏:一方、120Hz対応の撮像素子も展示していました。画素数は3300万、12ビット階調で、フレーム周波数が120Hzというもの。フレームレートを高くすると消費電力が増えてしまいますが、新開発のA/D変換回路で消費電力は2.5ワット(現行比で約60%)まで抑えているそうです。

120HzのフルスペックSHVイメージセンサー(左)。120Hz対応SHVカメラ(右)

120Hz駆動の8Kモニターがないため、4Kディスプレイを4枚使って120Hzの映像を見せていた(左)。SHVカメラ用の小型記録装置も開発中。新開発の並列書き込みアルゴリズムにより、現行SSDの2倍以上となる20Gbpsの高速記録が可能だ。写真は着脱可能な固体メモリーパックのモックアップ。容量は1.5Tバイトで、JPEG2000で圧縮したSHVを約50分間記録できるという(右)

麻倉氏:フレームレートが画質に与える影響を分かりやすく示すトピックとして、「ホビット現象」があります。これは、昨年末に日本でも公開された3D CG映画「ホビット 思いがけない冒険」で、通常の倍にあたる毎秒48コマのハイフレームレート3D映像を映写したところ、非常にリアリティーが増したというもの。それまで見えなかった細かい部分や質感まで感じ取れるようになったのです。これはフレームレートが増えると、単にジャダーが減ったり、動画解像度が上がるというメリットだけでなく、映像の質感再現が上がり、艶(つや)感やピーク感などもでてくるということ。この現象は、2Dでも報告されています。

 大画面化に伴い、テレビ放送は現状の60Hzで良いのか? という議論もありますが、UHDTVフォーマットとしては120Hzが既に確立され、今回見た“フルスペック”のSHVは、実際の風景をかなり忠実に再現していました。これまでは何かしらのエクスキューズ(疑問点)があったのですが、やはりフレームレートの向上はテレビシステムにとってひじょうに大きなメリットになると感じました。

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