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2つの“勲章”を持つAVアンプ、パイオニア「SC-LX87」潮晴男の「旬感オーディオ」(1/3 ページ)

» 2013年09月04日 15時15分 公開
[潮晴男,ITmedia]
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 毎年この時期になるとたくさんの新製品が発表される。こんなご時世にもかかわらず各メーカーとも良く頑張っているなと頭が下がる思いだが、パイオニアはこの秋も力のこもったAVアンプ「SC-LX87」を送り出す。これで3世代連続となるIR製の「ダイレクト・パワーMOS-FET」を採用し、Class D増幅というデジタルアンプによって、再びこのクラスの頂点を目指す。

パイオニアのAVアンプ「SC-LX87」

 AVアンプはアナログオーディオの製品と違って、進化するメディアやフォーマットへの対応に追われることが多い。そうした意味では旧来製品は整合性が取れなくなることもしばしばある。全く使えなくなるわけではないが、新しいソフトがかからなかったり、メディアの能力を生かしきれなかったり……というやつである。

 ITmediaの読者なら何度も体験した、新フォーマット出現の後のあの寂しさ。でも、やっぱり新しいものは気になるし、ということでぼく同様、製品を買い替えてきた人も多いことと思う。誰ですか、ゆったりとした時間の流れていたドルビーサラウンド時代が懐かしい、なんて言っているのは……。

 確かにあの時代はのんびりしていたが、ホームシアターの環境が劇的に変化したのは、ドルビーデジタルが誕生してからだ。これでついに劇場と、あるいはダビングステージと相似形の音のコンストラクションが体験できるようになった。

 BDの登場でロスレス音声が標準的に採用されるようになり、音声に関してのフォーマット競争はひと段落したものの、今度はネットワーク・オーディオやUSBメモリーなど、ハイレゾ化する音源への対応に迫られている。海外製のAVアンプに新製品がほとんどないのは、こうした部分にとても手が回らないということでもある。だから今や日本のAVアンプが全世界を席巻する。円高だ、材料費の高騰だと嘆きながらも、日本のメーカーが作らなくなったら、AVの世界は一気に化石化するのである。

こだわりの“オール32bit処理”

 パイオニアのSC-LX87は、そうしたAVアンプの中にあって多くのファンから期待される“ミドルハイエンド機”である。前作にあってもドライブ能力の高さにほれて購入したユーザーも多いと思うが、そうした特質を生かしつつ、このモデルはDACチップにESS製の「SABRE32 Ultra DAC」と呼ぶ32bit仕様のICを導入してさらなる音質の改善を計っていることが一番の大きな特長だ。

筐体(きょうたい)内部とDAC基板(右)

 もう少し詳しく説明すると、SABRE32の「ES9016」というチップは8チャンネル仕様である。ということは9.1チャンネル構成のこのモデルでは2チャンネル分DACが不足する。そこでどうしたのかというと、残りの2チャンネル分を「A-70」という昨年リリースしたプリメインアンプで実績のある「ES9011」というパイオニア専用の特製チップを加えたのである。

 先行する下位モデルの「SC-LX57」にも同様のチップが採用されているが、その使いこなしに感心させられた。それは2チャンネル用のチップをフロント2チャンネルに用いるのではなく、サラウンドバックに宛がっているからだ。オーディオ的観点からすれば、2チャンネル用のDACをフロントL、Rに採用し、そのほかのチャンネルにもう1つのDACを供出する、これがノーマルな考え方ではないかと思う。

 ところが彼らはそうはしなかった。L、RとセンターのDACを分けると微妙に音色が変化するという試聴結果を踏まえ、こうした方法論に到達したのである。サラウンドバックだけ24bitのDACにすることも検討したが、音質優先のため却下。コスト的には苦労したものの良い音のためにオール32bit処理を貫いたのである。もっとも、SC-LX57とSC-LX87では、SC-LX87の方が電源やパーツのグレードが高く、上位機に相応しい製品へと仕上げられている。

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